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「待ってたよ。じゃあ早速録音するから」
「えっもうですか」
「ちょっと時間がなくて、3テイクで終わらせてくれると助かる」
「そんな無茶な…」
じゃあいくよ、というヌナの声と共に流れ出したイントロに合わせて息を吸い込んだ。録音ブースじゃなくて作業室でレコーディングというのは久しぶりな気がする。
僕の声に合わせて動くパソコンの画面の線を集中して見ていたヌナは、僕が歌い終えるとふっと息を漏らした。
「さすがだね、スングァナ」
「僕を誰だと思ってるんです?」
SEVENTEENのメインボーカルですよ、と戯けて言うと、ヌナは画面から目を離してクスクス笑った。
でもねヌナ、やっぱりこれ、僕たちの曲じゃないよね?
「いい加減教えてください。これは僕たちの曲ですか、それとも…」
それまで笑っていたヌナは、打って変わって少し困ったように眉の端を下げた。
「……うん、ほかのガールズグループにあげる曲だよ」
ヌナがトントンと指先で叩いた机の上の書類には提供先のアイドルの名前と作曲家の名前。
作曲家の…名前…
「これヌナだったんですね…」
「ほんとはスングァニにも言うつもりなかったけど、今日ちょっと喉の調子が悪くて」
「だから僕を呼んだんですか」
「全部内緒にしてね」
「喋るわけないでしょう、僕がこんな…デモのレコーディングしたってドギョミヒョンに知られたら殴られますよ」
「あはは、わたしも怒られちゃうかも」
ヌナは随分と呑気にそう言うけど、ヒョンがこの作曲家の作る曲がヌナっぽいと言っていたのを知っているんだろうか。
うーん、絶対にバレないようにしないと。一応声を加工して送るらしいけど、僕の口から滑らせるわけにはいかない。
今後の生命が危うくなる。
「ヌナ、こういうことがあったらまた僕に言ってくださいね」
「どうしよっかな」
「ドギョミヒョンも言いそうですけど、僕だってこの世界で一番ヌナの曲を上手く歌う自信があるので」
「ただのデモなのに?」
「どういう形であっても手を抜く気はありません」
「頼もしいなあ」
データを送り終えたことを確認したヌナは眼鏡を外してグッと腕を伸ばした。
バキバキと肩が鳴っているけど聞こえなかったことにしよう。今度ヌナもピラティスに連れて行かなきゃいけないみたいだ。
またひとつ僕たちの秘密が増えてしまった。
これから先、僕はいくつヌナの秘密を抱えなきゃいけないんだろう。
仲良しってなかなか大変だなあ。
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作者名:cham | 作成日時:2021年2月2日 0時