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最後のリハーサルが終わり、ついに明日本番を迎える。
私は羽生さんに呼び止められ、人気の少ないところに移動した。
さっきから沈黙が続いている。
「……俺、どうしてもAの歌で滑りたかった。」
口を開いたのは羽生さんだった。
いつの間にか呼び方も変わり、心の距離は近づいた。
「だからわがまま言って呼んでもらったんだ。」
静かに耳を傾ける。
「またこうやって一緒にやりたい。」
「明日、頑張ろうね。」
と笑顔を見せると、チュッとリップ音が微かに聞こえた。おでこには柔らかい感触。
思わず俯くと、頬に手を添えられた。
「顔、あげて」
羽生さんの今までとは違う低い声に逆らえず、顔をあげる。
視線が混じり合う。
そのままきれいな顔が近づき、触れるだけのキスをした。
ふわっとあの時と同じ甘い匂いがした。
それじゃ、と羽生さんが言い残し去っていく。
私はただただその背中を見つめることしかできなかった。
ようやく状況を理解した私は、壁にもたれかかり先程の感触を思い出すように唇をなぞる。
「なんだったんだ、今の……」
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本番の朝になってもあの感触は消えなかった。
羽生さんは何事もなかったかのように振る舞っている。
私の衣装を見て、似合ってるねと一言。
それだけで顔が熱くなるのがわかる。
「羽生マジックのせいだ、」
ということにしておいて、この気持ちに蓋をした。
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本番中ありったけの思いを込めて滑る羽生さん。
演奏をするみんな。
父を思い歌う私。
それを見て涙を流す観客。
これ程まで会場が一体となって一つの演技が完成する。
初めて感じた。この感動。
私もその一部となれたことがとても嬉しかった。
曲が終わり、羽生さんがステージに上がる。
最後の言葉をこの会場にいる人に伝える時間だ。
「この曲は、私が父を亡くし絶望の淵に立たされたとき作った曲です。
辛い思いをされた方に、少しでも希望の光が差し込んでいれば私も嬉しいです。
もう一度始めましょう。ここにいる全員で。
今日はほんとにありがとうございました。」
マイクは羽生さんに渡り、全員が彼の言葉を聞く。
不思議と胸に染みる言葉を告げ。本番が終わった。
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作者名：ふーか | 作成日時：2019年8月26日 11時
