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Music54 ページ7

「ねえA、もう一度笑ってみせて」

「えっ……こ、こうか…?」







俺は口角を上げようとしたが、どうしても顔が引き攣ってしまうのが自分でも分かる。


笑え、笑えよ俺。


上司への愛想笑いばっかりしてたせいで自然な笑みができない俺、写真写りも最悪だった覚えしかないです。


ごめん美風、期待に応えられなくて。






「そうじゃない、もっと、今のは………」






残念がる、というよりは戸惑っているような美風。


ぶつぶつと横文字を連ねた文章を、俺に丁度聞こえないくらいの声で呟く。


しかし、納得のいく答えがデータベースになかったのか、すっきりしないような顔で、また俺に向き直った。








「今のは、Aは確かに『笑ってた』。プログラムされた“アイドルの”笑顔じゃなくて、ちゃんと、“音羽Aとして”……笑ってた」


「今までは……そう、たとえボクに接する時だって、Aはそんな『生きた笑顔』なんて見せなかった。…ううん、見せられるはずがない。だって君は」









そこまで言って美風は、ごめん、と言って口を噤んだ。


だが、その先の言葉は容易に想像できた。





【生きた感情なんて持ち得ない…“ロボット”なんだから】





…その通りだ。


今笑ったのは音羽じゃない。「俺」だ。


音羽の笑顔は、全部ニセモノ。


その事実は、恐らく俺がロボットだと知っている美風に一番重くのしかかってきているだろう。


QUARTET NIGHTと一緒にいる時も、美風といる時も。


ぜーんぶ、嘘。偽りの笑みだって。


感情への学習能力が多少なりとも備わっている美風に比べ、音羽は『感情』という物すら知らない。


本当に笑おうと思っても心から笑えない。泣けないんだよ。









…だからこそ、俺は今のこの胸の高鳴りを、絶対に忘れてはいけないんだ。


ちゃんと心の中に仕舞っておくんだ。


この……『嬉しい』というキモチを。


そして、いつか音羽に教えてやるんだ。






感情っていうのはこんなにも、あたたかいものなんだ…ってさ。

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作者名:蒼乃 | 作成日時:2020年6月23日 18時

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