第六話「代わりに」 ページ7
「花、街…」
私はそれを聞いて冷や汗が垂れた。あの後川に流れて、死ぬつもりだった私が花街の遊女に助けられたと?一旦冷静になり自分の胸元を見れば丁寧に包帯が巻かれ、頬にもきちんと包帯が巻かれていた。
「貴方川から流れてきて血だらけの所を保護したの。
瀕死の所をお医者さんに見てもらって、なんとか一命を取り留めたのだけれど…
元気そうね、良かった」
物腰が柔らかそうな遊女が私を見て微笑んだ。まさかあんな私を助けてくれるなんて。私は、ソッと怪我をした所を触れた。とてつもなく痛いが、体の軋みも感じる。
まさかと思い、遊女に声をかける。
「あの…助けていただいてありがとうございます…あれから日にちはどのくらい経ったか分かりますか?」
「そうねえ…ふた月は寝ていたわよ」
私はそれを聞いて目を見開く。ふた月!?そんなに寝ていたのか。だから体の軋みもあるのか。肩や頬だけではなく全身が痛い。
「ねえ、どうして血だらけであんな所に?
貴方肩を貫かれていたのよ。そんな怪我どこでしたの?」
遊女が私にそう問うてきた。鬼に襲われました、なんて言ったら混乱させるだけだろう。嘘をつくのは申し訳ないが、こうでもしないとほかに理由が思いつかない。
「…すいません。私もよく分かりません。前の記憶が、ぽっかり空いていて…」
その言葉に禿と遊女は顔を見合わせた。記憶がない方がいろいろ都合がいい。それに役目を終えた私は今、何をすべきか分からない。錆兎の代わりに死ぬつもりだったけれど、生き延びてしまった。
「…自分の名前は分かる?」
「…Aとだけしか覚えてません…」
死ぬ運命だったのに、こうして助けてもらえた。ならば私にはまだやるべきことがあるのではないか?この花街に流れ着いた意味を。
「そう…今は不安だけれど大丈夫よ。ここは安全だから。
女将さんには私から言って置くわね」
遊女は立ち上がると部屋を出て行った。遊女が出て行けば禿たちが私の傷は大丈夫かなどを聞いてくれる。
「ねえその傷で痛くないの?動かせる?」
私より年下だろうか。小さな手で私の右肩を指差す。私はその言葉に微笑んだ。大丈夫、動かせるよと意味を込めて右腕を動かそうとした。だけれど、右腕は動かせなかった。私は冷や汗がたらりと流れる。
まさかと思い手のひらを見つめる。動けと念じてもその腕は動かなかった。指先もまた、石にように動かない。
「…もう、右腕動かないの?」
私は、死ぬ代わりに、右腕を失った。
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❤︎ - 面白かったです〜!!!最後には少しうるっときました…笑もう3年も更新されていない事に驚きです。続きが気になる〜〜!!何年でも待つのでまた更新してくれたら私含め読者達ありがたいです!待ってますね。 (8月24日 21時) (レス) @page41 id: f6dfc22ed3 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ - めっちゃ面白いです!!!更新待ってます!!!!!!!! (2022年3月22日 22時) (レス) @page41 id: 4673827fe0 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - 続き!続きはどこ?!ねぇ?!((やかましい (2022年2月26日 21時) (レス) @page41 id: 1a6dd63888 (このIDを非表示/違反報告)
とうめい - 終わっちゃった〜…続きが気になります…更新待ってます!! (2021年10月3日 12時) (レス) @page41 id: 4fdb593f0d (このIDを非表示/違反報告)
りあむ(プロフ) - 終わり!?更新待ってます、、、 (2021年10月2日 20時) (レス) @page41 id: 5dcfb8d8c8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜餅 | 作成日時:2019年11月17日 20時