放課後 trsk ページ7
｢えっ？何が起きてるんですか？｣
｢平方完成して公式に代入しただけだよ…｣
数学が苦手な私は、試験前になるとこうして鶴崎先生の元に駆けこむ。授業を真面目に聞いているつもりなのに、センスがないのか数学はボロボロに出来ない。
｢数学は解ければ楽しいからさ、まぁ今は頑張って練習だよ｣
｢私その境地に達したこと今までないんですけど…｣
そんな私を知ってか知らずか、鶴崎先生は楽しそうに笑う。本当に数学が好きなのだろう。一生分かり合えない人種だ。
｢じゃあ次はこの問題！｣
｢えーっと…Aさんの力でどこまで行けたの？｣
｢初手で詰みました｣
｢そっか、じゃあ条件まず整理するところから始めようか｣
清々しく何も分からない私を、鶴崎先生はひとつも否定せずに教えてくれる。今まで出会った先生の中で、圧倒的に優しくて面白かった。
｢俺今日用事あってさ、もう帰らなきゃいけないんだよね｣
｢そうなんですか…残念…｣
｢あのさ、｣
鶴崎先生は声のトーンをひとつ落として言った。
｢良ければ一緒に帰ろうよ、門のとこで待ってるからさ｣
唇に人差し指を当てて、ないしょ、と呟いた鶴崎先生に私は嬉々として頷いて大急ぎで荷物をまとめた。
下駄箱で冷静を装って靴を履き替えながらも、鼓動が弾んでいる。鶴崎先生が待っていると思うとなんだか緊張して、さっきまで大急ぎだったのに門まで行く足が竦んだ。
｢あ、Aさん。遅かったね｣
｢あっあの忘れ物して…！！｣
緊張で来られなかったなんて言えない。咄嗟に誤魔化して、夕暮れの町を先生と一緒に歩く。いざとなると喋ることがなくて、そんな沈黙に耐えきれなかった私が口を開いた。
｢鶴崎先生はなんで教師になったんですか？｣
｢うーん…なんでだろう。数学が楽しかったからかな。数学の楽しさを生徒に知ってもらいたいなって｣
｢……私まだ数学の楽しさ分かってないや。全然得意でもないし｣
｢Aさん頑張ってるじゃん。できるできないじゃなくて、そういう姿勢すごい好きだよ｣
｢えっ…｣
違う。好きだと言われたのは、私の姿勢であって、私自身のことではない。それなのに、急に心臓がバクバクと音を立てて顔が真っ赤になってしまう。
｢あれ？喋らなくなったと思ったら照れてんじゃん、どうしたの？｣
無意識かと思いきや、これは絶対に確信犯だ。私の顔を覗き込んだ鶴崎先生の不敵な表情が全てを物語っていた。
『8時間目、恋愛』〜trsk〜
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 133人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
和奏(プロフ) - 初コメ失礼します。ymgmさんのお話、とても素敵でした。心理学強そうなイメージなので、人の心情には敏感なのかなぁと思ったり、思わなかったり… (2020年12月21日 8時) (
レス) id: ea0b227b7d (このIDを非表示/違反報告)
フェレット(プロフ) - ジャスコ好きです。奇跡の確率求めなくては(hnoさん) (2020年4月18日 9時) (レス) id: 88923771a6 (このIDを非表示/違反報告)
カルボン(プロフ) - フェレットさん» 田村さんとのその後はご想像にお任せします(*´`) (2020年4月17日 22時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
フェレット(プロフ) - 会話だけの話も良いですね、その後どうなったのでしょうね() (2020年3月29日 10時) (レス) id: 88923771a6 (このIDを非表示/違反報告)
カルボン(プロフ) - フェレットさん» どうも、幸せ供給隊長カルボンです（？） (2020年3月29日 0時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：カルボン
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年3月5日 23時
