116.異常事態 by A ページ21
･
※以降あんずちゃん視点にて、原作小説版の表現を一部お借りしております。
〜〜〜〜
教室の前方出入り口。
無言の北斗くんを、スバルくんは｢まだ｣笑ったまま呼び止めた……はずだった。
｢あ、あれ？ 聞こえてない？｣
でも、北斗くんは動かない。
｢おぉい、無視しないでよ寂しいじゃん！ ホッケ〜？｣
いつも通りの和やかな雰囲気、辛うじてその残滓をスバルくんが拾い集めている、けど。
だけど――
――音を立てて、砕け散った、のだ。
｢待てって言ってんだろ、北斗！｣
｢…………！｣
スバルくんが叫んだ瞬間、私はようやく気が付いた。
いつもの日常はもう、そこにはない。
決定的に、致命的に何かが損なわれて奪われていた。
これまで感じていた温かさは、温もりは、いつもの日常は、本当は跡形もなく消え失せていて。私たちはそれに気付かず、呑気に普段と同じ生活をしているつもりだった。
どうして、気付かなかったのだろう。私は彼らのいちばん傍にいたはずなのに。
床にぶつかるガラス細工みたいに、がしゃあん、と悲鳴を上げて砕けてしまうまで、私は一片も、気が付かなかったのだ。
『北斗』
確かにそう呼んだ。
渾名。
孤独の中で生きてきたスバルくんが、独りぼっちが嫌で、愛されたくて創ったのだろう、親愛の表現。
彼は今、それを捨て去って、いつも浮かべていた……今や強がりとなってしまった笑顔すらも取り去って、真正面から北斗くんの名を呼んだのだ。
呼ばれた北斗くんは、しばし硬直したのち、錆び付いた機械のように、ゆっくり、振り向く。
――そしてまた、背を向けてしまった。
俯いた北斗くんは、教室の扉に再び手を掛け、カラカラと音を立てて引き、……しかしまだ、苦い表情のまま、動かない。
｢……初めて『北斗』ときちんと呼ばれるのが、こんな局面になるとはな｣
その瞬間に、とうとうスバルくんから笑顔が、消え失せた。僅かに残っていた欠片も、その痕跡すらも全てまとめて。
｢『ホッケ〜』って呼ばれるの、そんなに嫌だったの？ だったらさ、今度からはずっと『北斗』って呼ぶから！｣
今にも教室を出て行ってしまいそうな北斗くんを、彼は机や椅子を押しのけ蹴倒し、ぶつかりながら追いかける。つまずいて、こけつまろびつ手を伸ばす。
机や椅子が倒れる音が、教室にこだまする。
異常事態が起きている。
怖くて、私は喉の奥から悲鳴を上げた。
教室で大量殺人が発生して、壁も床も天井も血に染まったみたいに見えた。
117.崩壊 by A→←115.絶叫無音、次いで冷淡 / 孤、独語
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 294人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Mashiro Lio(プロフ) - 迷えるJK〜dark side moon〜さん» 簡単な方(ただし難しい方と同レベル)に2年の終わり頃決めました。私の｢やりたい事｣と職業は無関係ですが、高収入は資金調達に必須ではあるので。描写は現実味に拘っているので、そのお言葉嬉しい限りです！今後も本作をよろしくお願い致します。長文失礼致しました。 (2021年3月23日 12時) (
レス) id: 3124529ae6 (このIDを非表示/違反報告)
Mashiro Lio(プロフ) - 迷えるJK〜dark side moon〜さん» そう言ってくださってとても嬉しいです！大学につきましては私の場合、当初やりたい事が無かったので｢国家資格を取れる、かつ狙える中で最も高所得を得うる所｣で決めました。2つ選択肢があり、ギリギリ難しい方を目指すか確実にもう一方で受かるか迷いましたが結局、 (2021年3月23日 12時) (レス) id: 3124529ae6 (このIDを非表示/違反報告)
迷えるJK〜dark side moon〜 - （追加）いつも小説の高校生の描写などが素晴らしく、きっとMashiroLio先生は賢い方なのだろうなぁ、と思って質問させていただいた次第です。お話にも関係のない話ですし、迷惑でしたら無視してくださって構いません。 (2021年3月23日 11時) (レス) id: ffd50faadb (このIDを非表示/違反報告)
迷えるJK〜dark side moon〜 - はじめまして！いつも小説楽しみにしてます＾＾私、MashiroLio先生の考え方に憧れていて、将来代替え出来ない人になりたく、次高3で進路（大学）選びに迷っているんですが、先生はどうやって決めましたか？もしよろしければ学びの方面など教えていただきたいです！ (2021年3月23日 11時) (レス) id: ffd50faadb (このIDを非表示/違反報告)
苺バニラ(プロフ) - Mashiro Lioさん» 迷惑になりそうだと思いコメントを削除した瞬間に返答がきたので、驚いてしまいました……。ある意味ではタイミングがバッチリですね(笑)もし貴方様がお暇な時は、ぜひボードにいらしてください♪好きな時間に書き込んでくださいね！ (2020年10月17日 16時) (レス) id: ead3d047d6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Mashiro Lio | 作者ホームページ：http
作成日時：2020年2月29日 11時
