さよなら、Iris【あんスタ】

98.絶望 by A /回答のない問 by M ページ3

･


その顔は、一瞬にして青ざめた。



さらに天祥院さんは、もう一言ささやく。


何の事か、私には知る由も無いが……尋常じゃないことが起こっているのは確かだ。

だが、その一言はとても大きかった。




ただ一言だけで、あのAが……これまで誰もが恐れた、悪魔か怪物みたく禍々しさすらある生徒会長に、臆することなく暴言さえもぶつけていたAが――





――動かなくなったのだから。




−−−−




Aの目から、光が消える。

彼は、さらに小さく何か呟いてため息をつく。そして、お気に入りの人形でも抱えるようにAの頭を自身の肩にもたせ掛けて。ずっと欲しかったおもちゃを買い与えられた子供のようにその頭を一撫でして、


｢――おっと、ごめんね。話を戻そうか｣


そして、何事も無かったかのように再び話し始めた。



それから後は、彼の思うがまま。

スバルくんが親の仇か何かのように天祥院さんを睨んでいたのだけが、気になったけど。



真くんとモデルの話、システム論の話、北斗くんの親の話では苦しそうに、スバルくんが｢あんたのお金はキラキラしてない！｣と言ったら嬉しそうに、眉や口元が動いたA。

でも『あれ』以降、Aが自ら動き、言葉を発することは、





一度も、無かった。




〜〜〜〜




俺は、動けなかった。


昨日の夜、凛月がAの肩を抱いているのを見てしまったときも。


｢そんな事には何の意味もない｣

そう言って笑う生徒会長に、Aが怒ったときも。


そのAが今、耳元で何か言われて、動けなくなっても。


俺は、動けなかった。



『もう……死にたい……』


『私にとって、ここにいるあんたらは憎らしい存在なの。わかる？ わかるよね？』


『あんたらなんか今は、顔も見たくないくらいなんだから！』



Aの言葉がずっと、頭の中で反響してる。



……なんでだろう。

俺は、俺たちは、どうしてこんなにもAに嫌われてしまったのだろう。
考えようにも、Aは『Trickstar』の手伝いをしている間ずっと笑顔だったから、むしろ協力的だったんじゃないか、とすら思ってしまう。


どっちにしろ、最重要事項の1つであるAの協力が無ければ、この戦いに勝ち目はない。元から、1つでも要素が欠ければ敗北が決まる不利な戦いだ。会長は、それすらも見抜いているのだろう。


仲間を裏切って、褒められるだなんて。
とんだパラドックスだ。



半年前の、金星杯。
あのとき見ていた輝きは、どこに消えてしまったのだろうか。



その答えは今や、誰も知らない。

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