さよなら、Iris【あんスタ】

130.決戦前夜 その四 ―｢約束｣― by R ページ35

･


ついこの間、コンビニに行ったとき。
俺は、見てしまった。


その日、しーちゃんに聞いた新作の炭酸を目当てに飲み物コーナーを見ていた俺は、ふと顔を横に向けた。

そこには、しーちゃんが両手にチョコの箱を持って、ぼんやりと立っていた。だから、声をかけようとしたんだ。そうしたら……









――――。











―― 一瞬、世界から音が消えた。






そしてそれは再び、じわりじわりと戻ってくる。

呆然とする俺に気付かずに、しーちゃんは立ち去っていった。両のポケットに箱を突っ込んで、店員や他の客に見られる前に。



きっとそのチョコは、親にバレないよう自分の部屋で食べたのだろう。その日の夕方に訪れたとき、しーちゃんの部屋からは、微かに特有の甘い匂いがした。




−−−−




あの現場を見た俺は、その後、何も言わなかった。



別に、容認した訳じゃない。

ただそれより、ストレスのはけ口を無くしてしまうことで、壊れてほしくないから。


しーちゃんは何年も、家の中で似たことをやってた。本人も悔やんでたけど、やめられないらしい。初めて打ち明けてくれた日、ま〜くんと俺と2人して、何度も何度も謝られた。『ごめんね……本当にごめんね、こんなクズが友達で』って。

当時、度重なるいじめとか、厳しすぎる親とかのせいで、しーちゃんはおかしくなっていた。



今もきっと、ま〜くんが『Trickstar』とやらにいるせいで、もう1人の転校生ばっかりちやほやされてるせいで『また』おかしくなっちゃったんだ。





――『万引き』に、手を出してしまう程に。





……でも、どれだけしーちゃんがおかしくなっちゃったとしても。俺はしーちゃんのためになら何だってする。

たとえ超極悪な犯罪者になって刑務所に入れられても、不治の病にかかって外国の病棟に隔離されても。｢来るな｣って言われない限り、地の果てまででも会いに行くよ。


だって、しーちゃんはたくさんたくさん苦しい思いをしてきた分、絶対に幸せになってほしいから。だから、邪魔するものは全部ぶっ壊す。優しいしーちゃんはきっと心が痛んでできないから、俺が代わりに手を汚す。


それが、俺の『贖罪』なんだ。



しーちゃんの幸せが消え去ってしまったのは、『親友』を怖がるようになったのは、俺達が気付けなかったせいでもある。その償いは、決して途絶えては、いけない。



あの子が、｢生まれてきて良かった｣って笑えるまでは。




今度こそ、絶対に『約束』は守る。
いつだって俺達3人は、ずっと一緒だから。

幕間3･とある病室にて[後編]→←129.決戦前夜 その二 / その三 by M

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す