さよなら、Dayflower【あんスタ】

75.何者にもなれない。 ページ28

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ああ、そうか。

ならば、もういいや。


ずっと｢私だって、あんずほど一緒にいないけど『Trickstar』の力になれてる｣、｢私だって皆を支えてる｣と思うことで、折れそうな心を保っていた。

……けれど、それは全部『つもり』でしかなかった。私の行動は彼らの心には、全く一切、響いてなどいなかったのだ。


だったら、もう離れてしまおう。

もう『Trickstar』の支援は2度としない。
頼まれても｢あんずがいるから、私はいらないでしょ｣って言う。だって、それが現実だから。私は、今この瞬間に彼らから忘れられている、その程度の存在だから。

あんずに頼まれたら、友達だからまあ考えなくもないけど。でも、あくまでその程度。





私は『Trickstar』にとって何者でもなかった。何者にもなれなかった。


しょせん、私は｢あんずの代わり｣｢あんずの付属品｣でしかなかったんだ。


もう、誰かに忘れ去られて傷付きたくない。私のことを忘れた相手に、大事な時に私を忘れた恨みさえ隠して黙って、｢大丈夫だよ｣って笑顔を取り繕うことなんかしたくない。


だけど。








――きっと今、この世界の全てが、ひとり残らず私の存在を忘れてるんだろうな。




−−−−




『Trickstar』が優勝した。


その事実は、学院を驚愕と歓喜の渦で包んだ。


ひしと抱き合う『Trickstar』とあんずの横で、蓮巳先輩は静かに目を閉じる。


｢……薄々と予感はしていたが、実際に味わうと苦々しいものだな。久しく舐めていなかった辛酸だ。敗北の、味だな。


……度し難い｣


それ以上何も言わず舞台を降りようとした蓮巳先輩を、朔間先輩は呼び止めた。


｢どこへ行くのじゃ、後輩に倒されるのは先輩の誉れ……。ともに祝おうぞ、などと言うのは酷かのう？

同情はせんがの、これから大変じゃの♪｣

｢こちらの台詞だ｣


その目には、静かな憤怒が宿る。


｢今日だけは浮かれるがいい、泡沫の栄光に酔いしれるがいい。……これ以上は、何を言っても負け犬の遠吠えだ。敗者はただ、舞台から去るのみ｣


悪意すら無い明星くんに、残酷にも｢ばいば〜い☆｣なんて言われつつ、先輩は屈辱と怒りを堪え立ち去る。最後に


｢この屈辱、忘れんぞ｣


と残した後ろに、私も、音も無く付き従った。




−−−−




｢……いいのか｣


控え室の前に着いてようやく、蓮巳先輩は口を開く。


｢衣更は大切な幼馴染みだろう。共に勝利を祝うと思っていたが……なぜ、こんな所まで付いてくる？｣


と、訝しげに問うた。





｢――当然でしょう？｣

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