055:思考回路 JN ページ6
「だからどうしてここにいるんですか?」
「どうしてって?」
「あなたがどうして用もないのにここにいるのか聞いてるんです」
「…腹、減ってない?」
ソユンは呆れた顔で俺を見た。
何だよ。
よく見たら可愛いな。
ジーっと見つめ返したら
心底嫌そうな顔でプイッと目を逸らされた。
「ジュネさん。お仕事暇なんですね」
「仕事は忙しいよ」
「だったれこんなとこで油売ってないで…」
ソユンがイライラし始めた時
ヒョンの自宅の電話が鳴った。
普段 固定電話が鳴ることはあまりないのだろう。
ソユンは しばらく電話機を見つめたまま固まった。
「出ないの?」
「で、出ますよ!」
ソユンの手が電話機に触れた瞬間
留守番電話が応答し始めた。
ピーっという機械音の後
聞いた事のない女性の焦った声が聞こえてきた。
『A、お父さんが倒れたの!メッセージを聞いたらすぐに福岡に帰ってきて!これから手術なんだけど、お母さん慌てて携帯を家に忘れちゃったの!とにかくすぐに帰ってきて!病院は…』
当然日本語の分からない俺は
おばさんの名前しか分からない。
だけど、留学経験のあるソユンはすぐに
自身のスマホを取り出して
女性が病院名を告げる頃には
遠いアメリカの地にいるおばさんに電話していた。
「Aさん!ごめんなさい急に!あの、たった今お母さんから電話が…」
あ…おばさんのお母さんだったんだ。
ソユンがおばさんに事の経緯を話している間
俺は考えていた。
おばさんのお母さんはどうして
おばさんの携帯に架けなかったんだろうって。
だけど、俺の疑問に答える前に
おばさんの携帯にも、ついさっき非通知で着信があったのだと分かった。
「ジュネさん、オンニが仕事に穴は開けないから安心してって」
「…あ、うん」
「オンニ大丈夫かな…」
「すぐに帰って来るって?」
「エアが取れ次第だと思うけど…」
「ユノヒョンに連絡した方がいいのかな…」
「ユノオッパだって遥オンニとオフをゆっくり過ごしてるよね…」
「チャンミンヒョンから連絡入るかな…」
「多分…」
-俺たちは 落ち着かない思いのまま
しばらく黙っていた。
焦りは人の思考回路を狂わせる。
俺たちはこの日、ありとあらゆる判断を間違えてしまった。
一度深呼吸して考えれば
きっと正しい判断ができたはずだった。
あれから、ソユンはこの日の自分を責めては
ため息ばかりついている。
056:対照的→←054:夜になる前の空のグラデーションみたいな人 CM
489人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時:2017年11月6日 23時