040:記憶 (Haruka) ページ41
記憶がないとはいえ
きっと血がお互いを求め合う瞬間だった。
それは きっと一つの答えだけど
私が思い出したのは
自分自身の過去の記憶。
直前で掌から零れおちた幸福
その時の私を忘れる事は
きっと一生ないのだ。
「すみません…あの…結論を出す前に…私の話を聞いてください」
過去の自分と
チャンミンの姿が重なる。
悲しくて 苦しくて
このままAちゃんが消えたら
チャンミンの心に どれだけの傷が残るか
私には 分かっている。
「昔…結婚を約束した人がいました。毎日が幸せで…このままこの幸せが続くと思いました。……結婚式当日…ウエディングドレスを着て人生で一番の幸福を感じていた私は…彼の言葉が信じられなかったんです…」
「遥さん…」
「タキシード姿の彼が…自分がプレゼントしたウエディングドレスを着た私に…好きな人ができたと…そう告げた時…一瞬変なサプライズなのかと思って…私は笑いました」
「…」
「でも、彼はそのまま式場を去りました」
「…」
「寂しいとか…悲しいとか…そういう気持ちって…きっとある一定の所まで来ると形が変わるんです」
「…」
「…[無]なんです」
「…」
「匂いとか…感触とか…感情とか…何も感じないんです…ただ、あの日の出来事が毎日、毎時間、頭の中でリフレインされるだけ。そこから抜け出す事も、そんな気力もありませんでした」
「…」
「私とAさんは確かに状況が違います。記憶を失くした彼女の不安を全部理解できるとは到底思えません。でも…私は…チャンミンくんは…憶えている。…どんなに2人の愛が深く…大きなものだったか…憶えています」
「…」
「ご家族とのこれまでの時間に、彼と一緒に過ごした時間の方が勝るとはもちろん思いません。だけど…これからの彼との時間…今、この瞬間も、Aさんを想うチャンミンさんの気持ちは今までと…全く同じです」
「…」
「だから…これからの事をどうしていくのか…2人で決める時間を…与えてあげてください」
深く頭を下げたら
まるで 自分の事のように涙が溢れた。
「遥さん……私は…」
「彼は…チャンミンくんは………例えAさんの記憶が戻らないとしても」
「…」
「それでも…2人なら」
「…」
「また……いや、何度でも…愛し合えると信じています」
Aちゃんの手をぎゅっと包み込んだら
過去の憐れな自分が
ぼやけて…小さくなっていく気がした。
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作成日時:2017年5月20日 0時