All of me. (ページ42)

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041:記憶ページ42

「遥さん、Aをよろしくお願いします」

少しだけ寂しそうにお父さんがそう言った。

胸が押しつぶされそうだった。

だけど遥さんの手の温もりが

私の決断を変えたのは確かだった。

帰っていく3人を見送りながら

遥さんは何度も頭を下げた。

「Aちゃん…ごめん」
「…」
「何か…引き離すような事しちゃったよね…私」
「遥ちゃん」
「Aちゃん？」
「私…そう呼んでたんですよね？」
「…うん…」
「ﾕﾉさんの事は、ﾕﾉ。ﾁｬﾝﾐﾝさんの事は…ﾁｬﾝﾐﾝ」
「うん…そうだよ」
「私の部屋に…数え切れないぐらいの雑誌と…昔仕事で使ってたんだと思うんですけど…ﾁｬﾝﾐﾝさんやﾕﾉさんのコーディネートブックがあったんです」
「そっか…昔彼らのｽﾀｲﾘｽﾄだったんだよね」
「それを見ていると面白いんです」
「面白い？」
「うん…例えば、[これはﾕﾉのNG色、失敗]とか、[このボトムスはﾁｬﾝﾐﾝの脚を生かせないとか]とか…。彼らと仕事していた記憶みたいな気がして、ちょっと嬉しかった」
「うん…」
「それに、私のｽﾏﾎにはたくさんの写真も残ってるから…想像するんです」
「想像…？」
「これは、喧嘩した後かな？とか…」
「…」
「まだ今は誰かの人生を客観的に見ているだけなんですけど…そのうち戻せるかもしれないって」
「…」
「不思議なんですけど…今の私にとってﾁｬﾝﾐﾝさんはただの他人のはずなのに、婚約者と聞いて納得する瞬間もある。ふとした瞬間に、きっと前もこうやって彼を見ていたのかな…って。そう思う事があります」
「Aちゃん…」

「遥ちゃん、私に…私の記憶を教えてください」

その夜

4人で食事した私たち。

ﾕﾉさんをﾕﾉと呼んで

ﾁｬﾝﾐﾝさんをﾁｬﾝﾐﾝと呼んだ。

彼らはそう呼ばれていたのが当たり前だからか、

違和感すら覚えなかったみたいだった。

「Aちゃんと弟さんそっくりなのよ」
「え、そうなの？俺も見たかったな～」
「言われてみれば…確かにそっくりですね」

居心地がいいと感じる。

それが私の真実を物語っているのかもしれない。

「そうだ…ﾂｱｰ後半はほとんど海外で帰れないから…3か月ぐらいは家を空けるから」
「…そうなんだ」
「A、遥をよろしくな」

こうやって

いつの日か本当に

私は私を取り戻せるかもしれない。

まるで祈るようにそんな事を考えていた。