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026:今までの僕 CM ページ27

「…もう3時だ……はぁ」





結局眠れないまま

水を飲みに下へ降りようとした。

なぜか 寝室へ続く東側の扉が気になって

数か月ぶりのそっと扉を開いた。





「お前…どうしてここにいるの?」





僕に気付いたジョセフが

トロンとした顔で僕を見上げている。

ふと東側を見ると、Aの部屋へと続く扉が開いていた。

一瞬 寝顔を見たいと思ってしまった自分を

静かに制して 大きく深呼吸した。

彼女は この部屋を見ただろうか。

自分の痕跡の残るこの家を見て

どんな思いで この夜を過ごしているだろうか。





「記憶がなくなるって…どんな気分だろう」





あまりにも子供染みた独り言に

苦笑いが零れた。

だけど

今日一日一緒にいて

記憶を失くしているAの

無意識の癖とか仕草が

懐かしくて

愛しくて

本当はすぐにでも抱きしめて

会いたかったよ

生きていてくれて本当にありがとう

そう言って

キスをしたかった。





柔らかい灯が零れるAの部屋

そっと中を見たら

ベッドサイドのランプに照らされて

雑誌を手に眼鏡を架けたまま眠る

愛おしい恋人の寝顔が見えた。





「…ほら、Aだ」





眼鏡を外してあげて

雑誌も サイドテーブルに置いてあげて。





「どうしてよりによって僕を忘れてしまったんですか」





布団をちゃんと掛けてあげて

目にかかる前髪をそっとかき上げてあげて。





「世界中の全部を忘れても、僕の事だけは忘れてほしくなかったです」





そっと おでこに口づける。

それは

今までの僕が毎晩当たり前にしていた事なのに。

そんなことも 覚えていないなんて。





「もう…どこにも行かないでください」





ジョセフを抱きあげて

そっと扉を閉めた。

結局眠れず

午前6時

Aの好きな朝食を用意して

僕は家を出た。





「どう、Aの様子」
「まだ眠ってますよ」
「大丈夫だって、ソユンもいるし、遥も顔出すって言ってた」
「…ありがとうございます」
「福岡のご両親には?」
「電話しました。とても心配しているので…福岡の時同行させようかと」
「そうだな…それがいいかも。Aも何か思い出すかもしれないし」





帰るのは3日後。

今のうちから待ち遠しくて

たった3日でも

傍に居れない事が

あまりにも辛い。

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作成日時:2017年5月20日 0時

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