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025:満月 ページ26

「おやすみ、A」
「おやすみなさい…」





階段の上

一際大きな中央の扉の前

私とチャンミンさんは別々の方向へ回れ右をした。

東側の扉を開けると

スッと心が落ち着いていく。





以前の私はこの部屋を書斎として使っていたのだろう。

窓際に向かって大きな机と

積み重ねられたファッション雑誌

まるでショップのように並べられた洋服や靴

部屋の隅には

控えめにセミダブルのベッドが置かれている。





この部屋が落ち着くのは

きっと私が好む物で溢れているからに違いない。





「ジョセフ、私はここにいて幸せだったのかな」





ジョセフは私の傍を片時も離れない。

記憶を失くしているのが

何だか申し訳ないほど。





病室で目覚めた時

とても長い長い夢を見ていたような気持ちだった。

だけど どんな夢なのかはまるで覚えていない。

鏡を見ても

自分が誰なのか分からなかった。

[私]という人間が

本当に存在しているのかも分からない。





「東方神起…………チャンミン」





どこから来て

今 どうしてここにいるのか。

手元にある雑誌を開いたら

チャンミンさんが特集されているページだった。

どうやら、彼は有名な芸能人らしい。





さっき彼に聞いた私たちの始まり。

この場所はその思い出の場所らしい。

この敷地がすべて彼の持ち物であれば

彼が有名な芸能人というのは納得する話だ。

彼のスタイリストであった自分を思い出そうとしても

何も浮かんでは来なかった。





ふと西側の扉に気付いて

そっと扉に手を掛けた。





「あ………」





あの大きな中央の部屋なのだろう。

大きな大きな部屋の真ん中

キングサイズのベッドと

優しい色の壁紙

ふわりと漂う香りですら

私好みなのか 思わず誘われるように中に入った。





ゆったりと身体を包み込みそうな一人掛けの椅子と

柔らかそうなカウチ

窓際のテーブルには読みかけの雑誌と丸い眼鏡。

走り書きされてるメモの字は

確かに私の字だ。





壁に飾られた写真の中

チャンミンさんと見つめ合って

幸せそうに笑う私がいた。





ジョセフは慣れたように

ピョンとベッドに飛び乗って

そのまま丸くなって眠ってしまった。

起こすのが可哀想で

ドアを開けたまま

私は自分の部屋へ戻った。





今日は満月みたいだ。

次にまたこの大きな月を見る時

私の記憶は蘇っているだろうか。

少し怖くて

目を閉じても 眠れそうにない。

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作成日時:2017年5月20日 0時

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