024:恋に落ちた日 CM ページ25
初めて、福岡という街に降り立った時
どこか懐かしさでいっぱいになった。
「初めまして、担当のAです」
「…」
年上の彼女は
年上らしい笑顔を湛えて
綺麗な韓国語で僕に挨拶したのに
まだ女に免疫のない僕は
緊張のあまり何も言えず俯いてしまった。
福岡出身の彼女は
この日から
スタイリストという肩書だけでなく
僕らの日本語教師として
僕たちと行動を共にすることが多くなった。
「…海ですか?」
「うん、一度だけ韓国を旅行した時に行ったの」
「何という所?」
「忘れたのよね…でも不思議な形の砂浜だった」
「あ、ここ分かるかもしれない」
「また…行ってみたいな」
「今度…一緒に行きましょう」
「え…」
僕の気持ちは
日増しに大きくなって
気付いた時には
抑えきれないところまで到達していた。
その年の夏
ツアーの合間を縫って
半ば強引に彼女を韓国へ連れて帰った僕。
多分 彼女は僕の気持ちを知っていたし
同じ気持ちだったんだと思う。
「チャンミン…ありがとう」
「思ってた場所だった?」
「うん…ここだよ」
長い髪が風に揺れて
彼女が ゆっくりと僕の方を振り向いた時
僕の右腕は もう彼女を捕まえていた。
「Aさん、好きです」
僕の想いに答えるように
Aさんの唇が
ゆっくりと僕の唇に重なって
「チャンミンが…好きです」
僕たちの想いは
とうとう 一つになった。
***************
「それが…この場所」
「え…」
「あれからもう何年も経ったけど、僕らにとっては大事な場所だから」
「…」
「ここに家を建てたんだ」
僕たちの始まりの話を聞いて
どう思ったかな…。
少し心配だけど
見る限り 不快にはなっていないようだ。
「おやすみ、A」
「おやすみなさい…」
Aが帰ってきて 初めての夜。
Aは、Aの部屋に
僕は、僕の部屋に。
Aがいなくなってからとは違う種類の感情で
今日も 眠れそうにない。
前は
当たり前に2人で眠っていた寝室。
今度 この扉を開けるのはいつになるんだろう。
「早く…僕を思い出して」
今日の満月は
いつか きっと
僕の望みを叶えてくれるような気がする。
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作成日時:2017年5月20日 0時