All of me. (ページ18)

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017:記憶ページ18

どれぐらい眠っていたのだろう…

酷い頭痛はおさまっていた。

とにかくここを出なければならない。

咄嗟にそう思ったのは

ｼﾞｭﾈの正体を知ると同時に

自分の過去の断片を少しだけ思い出した気がしたからだ。

『…僕、それ好きじゃないんです』
「どうして？」
『別に…ただ目障りというか』
「でも、［Re:］と書いていれば、こないだのﾒｰﾙの返信だってすぐに分かるでしょ？」
『…嫌味のつもりですか？』
「え？」
『［こないだ］って…まるでいつもすぐに返信返せない僕に対しての嫌味みたい』
「別にそういうつもりじゃ…」
『そうでしょうね、Aさんは僕と違って素直だから』
「…」
『明日日本へ行きます』
「…そっか」
『…前はもう少し喜んでくれたのに』
「嬉しいよ、今も」
『…最後ぐらい素直になってください』

夢を見ていたけど

あまりにもﾘｱﾙで

これは過去の記憶だとすぐに確信した。

だけど相手までは思い出せない…

もどかしい自分がいる一方で

[最後］というワードが気にかかる。

今日ｼﾞｭﾈは帰って来ない。

お給料として戴いたお金は使わずに取ってある。

今までお世話になったお礼として

全部おいて行こう。

身の回りのものをまとめて

まだ明けきらない早朝にそっとｼﾞｭﾈの家を出た。

弟のようなｼﾞｭﾈの笑顔が

胸にﾁｸﾝと痛みを広げていく。

だけど

これ以上お世話になって

もし何かあれば彼の仕事に影響を及ぼしてしまう。

目を見てお礼を言えないのは気にかかるけど

いつか偶然再会したら

きちんと目を見てお礼を言おう。

昨日見つけたｶﾌｪが

まだこんな早朝にも関わらず

もうオープンしていた。

とにかく

心を落ち着かせなければいけない。

優しい灯に手を引かれるように

ｱﾝﾃｨｰｸ調の扉を開いたら

温もりに満ちた空間が

私をすっぽりと包んでくれた。

ｲﾝｽﾀを開いた。

あの不思議なﾘﾌﾟに

新しいﾘﾌﾟが増えていた。

ーRe:Re:これから迎えに行くよ、A。

小さな窓の外

悠然と太陽が昇って行く。

ｷﾞｼﾘと店の扉が開いた時

失われていた記憶が

また一つ音を立てて蘇った。