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ウェンティはニコリとほほ笑み、それから歌うように語りだした。
「日向にいれば英雄に、日陰にいれば災いに…」
旅人が困惑していると、ウェンティは途中でハッとした。
「あっ…今は君のために新しい詩を書いている暇ないんだった。」
それからゴホン、と咳ばらいをし、真面目な表情になる。
「たとえトワリンは討伐されずとも、その生命力はすごい勢いで消耗していっている。…彼は怒りの中で、自分を燃やし尽くそうとしているんだ…」
「そんな……」
パイモンが悲哀感ずる声をあげ、旅人は『かわいそう……』とつぶやいた。
「ありがとう、それと涙の結晶の浄化も。
ここからは、ボクが動く番だ」
それから、彼は自分に作戦がある、と伝えた。
「作戦ってなんだ?」
パイモンが聞いた。
ウェンティは、それを空を眺めながら答える。
「龍の涙を見ていたら、ある故人のことを思い出してね……」
その目は懐かしさを映していた。
パイモンと旅人は顔を見合わせて、キョトンとする。
「故人?」
ウェンティはその話題を無視し、「へへっ」と笑った。
「それじゃあお先に失礼するよ。」
「おい、どこ行くんだよ?」
「モンドの“英雄の象徴”だよ。またね。」
そう言って手を振り、ウェンティは素早くその場から消えた。
パイモンは納得いかない様子である。
「む……蛍、どう思う?」
「変わった人で、観察が必要だ。」
蛍がそう答えたとき、どこかから笑い声が聞こえた。
声の方向を辿って行けば、そこには家の壁に寄りかかってたまらない、という風に腹を抱えるミラージュが。
「はぁ、はぁ……ふふっ、怖がられてやんの。」
それからしばらく笑い続け、最後に『ふぅ〜』と息をついた。
「おい、ミラージュ、あいつのこと知ってるのか!?
っていうか、なんでここに!?」
パイモンはミラージュに向かって大きな声で聞いた。
ミラージュは当たり前だという風に答える。
「そりゃあ。いい親友だよ。ここにいるのは仕事が終わったから。」
「じゃああの時なんで教えなかったんだよ!?」
「あの時はウェンティよりトワリンだったじゃん。」
気持ちが高ぶるパイモンの問いにミラージュは呆れて答えた。
「それより、“英雄の象徴”ってどこ?」
蛍が単調直入に聞く。
親友ならば、どうせ知っているだろうと思ったのだ。
「ああ……それなら、私もついていくよ。あの時も挨拶できなかったし。」
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作者名:おいしいじゃがいも | 作成日時:2023年4月5日 20時