憑依 ページ11
時の流れは瞬きをするくらい一瞬で、早い。狼谷Aが浅沼家に居候を始めてから、一年が経った。大学卒業後ふらふらとしていたAも今では立派な大学院生となっていた
***
今は７月。蒸し暑いアスファルトの上には、水が撒かる。パタパタとうちわで暑さを吹き飛ばす人の姿もちらほらと見える
今日は、珍しく二人ともオフの日のようで、クーラーで冷え切った部屋のソファにぐでーっと横になった浅沼は、アイス棒片手に、ぼーっとテレビを見ていた
『はぁ〜っ、やっと終わった……！』
奥の部屋から聞こえてきた声に浅沼は生気を取り戻したかのように、起き上がりその声の主の元へと向かっていった
両腕を高く天に伸ばし、そのまま脱力。上半身をソファにどっかりと沈めた。ブルーライトカットの眼鏡を殴るように外したAは、肩や首をぐりぐりとほぐし始める
―――皆さんご存じであろう、本屋大賞 最年少受賞を二回、芥川賞を一回と、一躍時の人となった『カミヤマコト』という作家を。その実態はというと、担当編集者がついていけないといわんばかりにコロコロと変わり、業界では『編集者泣かせの作家』としても有名な程なのだ。それくらい締め切りを延ばしに延ばして、本日ようやく新作を書き上げたようだ。構想が降ってこないと書けないと嘆き、半ば作家業を放棄していたカミヤマコトは、今日という今日まで筆を執らずにいた
「……入るよ」
と、控えめなノックと共に扉から顔を出したのは、そんな作家の同居人である浅沼晋太郎という男であった。この男、今を時めく大人気声優であるのだが、その年齢は四十歳と見た目のわりに老いている。だが、そんなことを微塵も感じさせない程の実力を博しているのだから、文句は言うまい
「どう、進んだ？」
『はい、終わりました』
「そう、お疲れ様」
はい、ホットミルク、と疲れが吹っ飛びそうな甘い飲み物をテーブルにおいて、カミヤマコトの目の前に腰を下ろした
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