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音にたゆたう_1(剛士) ページ6

穏やかな夜だ。夕方に降ったにわか雨の影響だろうか、開け放した窓からは涼しい風が入り込み、薄いカーテンを静かに揺らめかせた。線路に近いAのマンションからは、電車が走る音が一定間隔で響いてくる。耳障りなこともあるけれど、今ばかりは時折聞こえるその音が、どこか心地よいアクセントとなっているように感じられた。
部屋の空気に溶けていくみたいに、あくまでも穏やかに、細やかに、俺はギターの弦を鳴らす。唇から漏れ出るような小さな歌が、静かに俺たちの周囲を震わせていた。

「……ん」

とん、肩に軽くぶつかった感触に、閉じていた瞳を開ける。見れば、隣で静かに歌を聴いていたAが俺にもたれかかって、小さく寝息をたてていた。
…んだよ、寝ちまったのか。お前が弾いてくれって言ってきたんだろ、と思ってみるけど、怒る気持ちが湧いてきたわけではなかった。
すう、と寝息と共に、Aはさらに俺に体重をかけてくる。仕方ねえなと軽く息を吐いて、ギターを床に置いた。

「……仕方ねえやつ」

言葉を繰り返して、もたれかかってきたAの顔を覗き込む。遅い時間に訪ねれば、ひどく疲れた顔をして迎え入れたことを思い出した。早朝出勤に残業の繰り返し、それでも「剛士といると、疲れも飛んでいくから」と遅くにやって来る俺を待っていてくれるのだ。
何をするわけでもねえ。寄り添って、俺がギターを弾いて、こいつが聞いている。そんなありふれた時間が一番好きなのだと、そう言って笑うこいつが、俺は。

「……お疲れさん」

手を伸ばして、そっとAの髪に触れる。少し跳ねる癖のある髪先はぴょんと丸まっていた。くるりと指に巻きつけ、離す。しゅるりと抜けていく。
自然と、口元が弧を描いていることが自分でもわかった。随分と緩んだ顔をしているだろうけれど、見られる相手がいるわけじゃねえから別にいい。
しばらくそうして髪先で遊ばせた後、今度は掌を静かに頭に置いた。

がたん、ごとん。電車が通り過ぎる音が響く。と同時に、爽やかな風が部屋に吹きこんで、Aと俺の前髪を揺らした。

起きてる時なら絶対こんなことしねえ…けど、どうしてだろうか。こいつが寝ているからか。それとも、あまりに穏やかな時間がそうさせるのだろうか。

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設定タグ:B-project , 夢小説 , 短編集   
作品ジャンル:アニメ
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keizi-yuki(プロフ) - まほしさん» 面白いです!!まほしさんにお聞きしたいことがあるのですがお聞きしてもよろしいですか?僕も今Bプロの小説を書いているのですがお互いの呼び方がわからないので教えてもらうことってできますか? (2018年6月2日 16時) (レス) id: d1d4e10695 (このIDを非表示/違反報告)
Alice@Shu.Ryuji(プロフ) - まほしさん» ご解答ありがとうございます〜。楽しみにしてます!! (2017年8月4日 21時) (携帯から) (レス) id: a0d3cca6c5 (このIDを非表示/違反報告)
まほし(プロフ) - Alice@Shu.Ryujiさん» リクエストは特に募集はしていませんが、書けたら書くし思いつかなければ書けない…という感じです。言っていただいたのにすみません(汗)ただ、次は和南くん夢アップする予定なので、書きあがったら読んでいただけたら嬉しいです^^ (2017年8月4日 12時) (レス) id: 98138b6672 (このIDを非表示/違反報告)
まほし(プロフ) - Alice@Shu.Ryujiさん» こんにちは。いつも読んでいただき、ありがとうございます!これからもマイペースに頑張りますので、また読んでやってくださいませ。 (2017年8月4日 12時) (レス) id: 98138b6672 (このIDを非表示/違反報告)
Alice@Shu.Ryuji(プロフ) - 個人的なお願いですが、竜ちゃんと和南お願いしたいです。リク受付なさってなければごめんなさぃ(/_・、) (2017年8月3日 23時) (携帯から) (レス) id: a0d3cca6c5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まほし | 作成日時:2017年6月9日 21時

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