《B-PROJECT》みじかいゆめ4

りんごあめの味がする_1（悠太） ページ43

好きだよって、何でもないように一言そう告げれば、わたしたちの微妙な距離感は何か変わるのだろうか。
祭の喧騒から離れれば、途端に蝉の声がうるさく鳴り響く。さびれた神社に続く急な石段の一番下に腰掛けて、わたしたちはそろってりんごあめに齧りついた。
友達以上、恋人未満。
隣に座りりんごあめを嬉しそうに頬張る悠太を眺めていたら、ふとそんな言葉が浮かんできた。

出会ってから数年の付き合いになる悠太は、甘党同士ということもありよく気が合った。一緒に小洒落たカフェや評判のお店に出かけることもしばしばあったし、たまにはこうして夏祭りなんてイベントに出かけることもある。今日はひたすらお祭りでしか食べられない甘いものを制覇しよう！という謳い文句でやってきて、ざわざわ賑わしい屋台通りを見て回ったりした。かき氷、クレープ、チョコバナナにベビーカステラ、それにわたあめ、今持ってるりんごあめ。色々見て回って、片っ端から買って、食べて、手と口が空いたらまた買って。

悠太と一緒にいるのは、間違いなく、楽しい。多分、誰よりも楽しい。
でも、それだけじゃない気も、する。
会えば喋りたくなるし、ちょっと遠くにいたら思わず目で追っかけちゃう。そういうのは悠太だけだし、それってわたしの中で彼が特別だってことだよね。
でもでも、それが「好き」って奴なのかどうかは……はっきりしなかった。はっきり考えることを、避けているんだと思う。
悠太と一緒にいる時間は楽しくて、とても大切だから。
だから……何も言えないんだ。

「他の人たち、いなくなっちゃったね」

りんごあめを齧りながら、悠太がきょろりと周りを見回した。確かに、わたしも視線をぐるりと巡らせる。わたしたちがここに来た時には、カップルとか家族連れとか何組か座ってたけど、いつの間にかいなくなっている。

「花火始まるからかなあ」
「え、もうそんな時間？」
「うん。あと…10分くらい」

腕時計を見て悠太に答えれば、「そっかあ」と頷いて最後の一口をぱくりと口に入れた。んん、と声を出してきゅーと目を細めて口元に笑みを浮かべる。表情全部で美味しいって言ってるみたい。

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