《B-PROJECT》みじかいゆめ3

くちづけんきゅう_1（帝人） ページ12

Aさんと僕とは、ヒカルンを通じて知り合った、いわゆるオタク仲間という奴だ。Aさんは乙女ゲームをやりつくし、ありとあらゆる男を落として来たのよと自慢げに言うとても素直で可愛い人。僕たちはお互いに話したいときに話し、自分の趣味に浸るときは浸る、そんな心地いい距離感を保っていた。
だからときどき、リーダーの目が怖くなったときはAさんのお家にお邪魔して、大画面でマミリンの世界に浸らせてもらっていた。Aさんも一緒に見てくれたり、別室で自分の趣味に走ったり。僕が盛り上がっているとひょこりと顔を覗かせて「なになにー、今ええとこ？」なんて笑って聞いてくれる。それがたまらなく嬉しいし、ああ、好きだなって、思うんです。

そんな日々を繰り返していたら、いつしか僕たちの距離は少しずつ縮まっていった。特に理由をつけなくても僕は彼女の近くにいることが許されている気がしたし、きっとAさんも同じように僕と一緒にいる時間を悪くないと思ってくれているだろうと思っていた。今日もそんな風に、Aさんの自宅でお菓子をつまみながら深夜帯アニメを鑑賞していた。

「なー、みかち」

いわゆるラブコメもの、その最終回を前に主人公がヒロインに想いを伝えるより早く口づけをしたシーン。恥ずかしがるかと思えばAさんはじいっとそのシーンを見つめていて、エンディングロールに入ったところで僕にそう声をかけてきた。

「はい？」
「リップ音ってな、言うやんか」
「ああ、ありますね」

頷いて「こんな感じの」と軽く指を食み、鳴らしてみせる。Aさんは「おおー」と感心したような声を出した。

「さすがみかち…女の子がばっきゅんされるでそれ」
「ありがとうございます。で、リップ音がどうかしましたか？」

確かにさっきのアニメでもそんな音が出ていた。

「あー、そうそう。あんな、リップ音って言うやんか」
「はい」

ぽん、と手を打ってもう一度最初から言いなおすAさんも可愛らしい。

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