07 ページ7
駅員さんへ事情を話すと、すぐに話聞いてくれた。どうやら、痴漢される方が悪い、などという人ではなくて、よかった。
犯人はごく普通のサラリーマンで、『出来心で』と言っていた。つい魔が差して、それで人生おしまいだ。こうはなりたくないな──とは思うが、いつどこで道を踏み外すかは自分でも分からない。
サラリーマンはまだ話があるらしいが、僕達は帰っていいとのことで、学校にも事情は連絡してくれたらしい。駅員さんが優しい人でよかった。
部屋を出て、駅のホームへと向かう。結局、途中までは一緒なのだ。
「この後、学校行くの？」
「……行くよ。休んでもいいとは言われてるけど……」
会話が止まる。空気が重い。いつもならすぐ来る電車も、なんだか全然来なくて。
しばらく経って、彼女が僕に話しかけてきた。
「……助けてくれて、ありがとう」
「え？」
「それから、いきなり袖引いたりして、巻き込んでごめんなさい」
ぺこりと頭を下げられる。
「そんな事ないよ、どちらかと言うと、君の方が心配で……」
そう言いながら見ると、突然ぼろぼろと涙を流した。さすがにびっくりしてしまう。
「えっ、泣かないで？！ハンカチ使う？」
彼女は少し迷ったようにしてから、こくりと頷いた。
泣き止むまで駅のベンチで待つ。間に一席開けて座るのも、それはそれでわざとらしい気もして、気にしないように務めて隣に座った。
……怖かったのかな。
僕はちゃんと、助けられたかな。
なんとなく、泣き顔を見るのは悪いことをしてる気持ちになって、彼女の顔は見ないでいた。
「……ハンカチ、ありがとう」
「あはは、役に立ったなら良かったよ」
「オールマイトが好きなの、変わらないね」
ハンカチの柄を眺めてくすりと笑う彼女。その笑顔は、やっぱりどこか見覚えがあって。
「やっぱり、君にどこかで会ったことがあるのかな……」
そう言えば、なぜか、じっと見つめられる。ちょっと近い。なんだかドギマギしてしまう。まだ少し赤い目と鼻。
「ちょ、近……」
「その、君、ってやつ」
「え？」
「私の名前、君じゃないんだけど、本当に覚えてないの？」
「……ごめん」
彼女は少し悲しそうに目を伏せる。 なんだか悪いことをしたような気持ちになった。
「心音」
「え？」
「心音 A。覚えて、ない？」
心音──A？
あっ、と口から漏れる。
「Aちゃん？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 77人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
漱(プロフ) - みかんさん» コメントありがとうございます！少し語感が悪かったので返させていただきました！デク君落ちの小説少ないですよね！更新頑張らせていただきます！ (2018年8月21日 23時) (
レス) id: a1b019c15f (このIDを非表示/違反報告)
みかん - あれ？題名代わりました？緑谷くん落ちの作品が少なかったので、ありがとうございます。これからも更新頑張ってください！楽しみにしてます！ (2018年8月21日 21時) (レス) id: 4c9134da1a (このIDを非表示/違反報告)
漱(プロフ) - みかんぽんずさん» コメントありがとうございます！とっても嬉しいです！更新頑張ります！ (2018年8月20日 16時) (レス) id: 7bc15f0ad8 (このIDを非表示/違反報告)
みかんぽんず - 序盤ですが、とっても素敵です…！緑谷くんと夢主ちゃんが今後どうなるのか、ドキドキです！（笑） (2018年8月20日 10時) (レス) id: ebb094bbec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：漱 | 作成日時：2018年8月18日 20時
