【合作】僕らに朝は来ない。 (ページ18)

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第18話　byくろーさぎページ18

Side珠樹良介

一通り事務仕事を終え、休憩時間に入ると、珠樹は外で涼む事にした。

監獄の裏手にある、木々と壁との間に開いたスペースは、風通しが良く静かで落ち着く。人の目を気にする必要もない穴場だ。

そんな穴場だからこそ、見えてしまった。自販機で買った麦茶を傾け、一息つこうとした時に。

(……あれは……罪人の……？)

一人が、罪人の共有出来る大きな部屋“昼の間”にいた。それだけなら何も問題はないのだが、気になるのは、その罪人が、紙に何かを書いていた事だ。格子窓から見える様子から察するに、ノートか何かか。

何を書いているんだろう、とは思ったが、彼らは無実を訴えている人間だ。脱獄の案でも話し合っているのかもしれない。

(やめろ……なんて、言えないですよ……)

本来なら、ここで見逃すのは許されないだろう。監獄の管理人達は、いくつもの採用試験を合格して選び抜かれた一軍で、言わばエリートだ。夜の住人、なんて呼ばれているのも当然知っている。

(でも……とてもじゃないですが、邪魔する気にはなれませんね……)

元々彼はそこまで気が強い方ではなかった。自分の意見は持っているものの、それが却下されればすぐ引き下がるし、争い事は極力避けたい。先輩の言う事を真面目に聞いているのも、誰より努力しているのも、全てはそこに繋がる。彼は“最善を取っていたい”だけなのだ。

「最善……この夜の国で、最善かぁ」

元々静かで誰もおらず、昼間でも暗い所に監獄を立てたため、牢獄の中は更に薄暗くなった。朝が来ないわけではなく、朝が来ても気づかない(･･････････)だけだと、珠樹は何度も言い聞かせて来た。だが、

「“次の日を見られるかどうかも分からない”事を思えば、あながち間違いではないのかも……」

罪人達が次々と処刑されていく中で、脱獄を考えない方が無理があるというものか。だが……。

――ここは警備の万全な“夜の国”。

　脱獄なんて出来るはずがない――

その時、森の木々がざわざわと揺らいだ。

「そういえば……“真夜中の日”が来ますね……」

監獄の強大なセキュリティ保持の為に、年に一度だけ監獄の全ての電気が落とされ、監獄は暗闇に包まれる。夜の国に真の“夜”が訪れるこの現象を人は“真夜中の日”と呼ぶ。

「……そのどさくさに紛れられたら、やりにくくなりますね」

そんな事を呟きながら、珠樹は仕事に戻る。

昼の間にいた罪人を、見なかった事にして。