二度目の人生はあの子が愛した世界で “弐”【文豪ストレイドッグス】 (ページ15)

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伍拾漆 “〃 (4)” ページ15

｢気が変わった。君達とはまた会いたくなったよ。特に君とは、ね｣

そう云い、青年は右手で私の頬に触れて耳元に顔を近付けた。
そして私にしか聞こえない声で、こう告げた。

｢次こそは、その眼帯の下に隠された極光銀(オーロラシルバー)の瞳を是非とも拝見したいものだ｣

『なっ……！』

何故、此奴が私の目の事を知っている……！
この世界の者は私の目については誰も知らない筈だ。
私は人前で之をとった事は一度も無い。
有り得るとするならば、それは首領と最初に出会った時ぐらいだろう。

じゃあ此奴は一体、何時、何処で、如何やって……？

得体の知れない恐怖を感じ、今直ぐに此奴から離れなければならないと頭がガンガンと警鐘を鳴らした。

しかし実際の処、私は動けず、唯目を見開いたまま震える拳を悟られまいと握りしめる事しか出来なかった。

｢ふふ。生きていれば、また会おう｣

満足気に微笑んだ青年は足早にこの店を去って行った。
左手で前髪を、右手で心臓辺りの襟衣をぐしゃり、と掴んだ。
無意識に早まっていた呼吸を落ち着かせる為に一度深く深呼吸する。

｢A……。A？おい、大丈夫か？｣

『……ええ、大丈夫ですよ』

作之助さんは私の傍で片膝をついて背中を摩ってくれた。
悟られまいと笑顔で返したが、彼は眉間に皺を寄せたまま苦しそうな表情を浮かべるだけだった。

｢無理しなくて善い｣

そっと壊れ物に触れる様な手付きで、彼に抱き寄せられて、そのまま子供をあやす様に背中をポンポンと優しく叩かれる。
何故だろうか、作之助さんと共に居ると凄く落ち着く……之も私達が似ているからなのだろうか。

だらんと行き場を失って垂れていた腕を彼の背中にまわして、ぎゅっ、と少しだけ力を込めて抱き締め返すと、一瞬あやしていた手が止まったが、又直ぐに再開した。
……将来、絶対善い父親になりそうだな、この人は。

段々と落ち着いてきた処で、もう大丈夫です、と云って手を離せば、彼は最後に私の頭を一撫でしてから、ゆっくりと離れた。

『作之助さんのお陰で大分落ち着きました、有難う御座います』

｢大した事はしていない｣

頭を下げようとすれば未来を先読みしたのか下げなくて善いと云われたので、礼をしないと気が済まないと云って今度何か奢る約束を無理矢理とりつけておいた。