第3色 嵐の王 ページ9
.
禁じられた森は静謐だった。
ハロウィーンだというのに重く暗い静寂がふきだまり、
そっと足を踏み入れる。透明になる能力はまだ効いていると思う。先生たちに見つからないよう、アリルは少なくとも自分以外に会うまでは、透明でいるつもりだった。
木々の隙間から見える夜空には、月が高く昇っている。
ふと、懐かしい羽の音が聴こえた。
思わず杖をホルダーに収め、透明人間から普通の魔法使いに戻る。姿を隠したままでは不都合がありそうだったのと、単純に、隣人たちとは顔を見て話したかったから。
中に火の灯されたジャック・オー・ランタンを掲げてそちらを見れば、紅紫色の髪をひっつめた小さな妖精が。
こちらの顔を見て嬉しそうに笑い、羽を擦り合わせて音を出す妖精語で、歓迎してくれている。
アリルは羽がないため妖精語を話せなかったが、理解することはできた。妖精も同じく人語を話すことはできないが、理解はできる。だから会話は成立するのだ。
「初めまして……だよね」
『
そう。アイルランドの妖精に育てられロンドンの妖精たちと暮らしてきた彼にとって、この辺りに棲む妖精は、あまり馴染みがない。ヒトの感覚で言うなら、親の遠戚といったところだろうか。
妖精は「会えて嬉しい」というようなことを言いながら、森の奥へとアリルを誘っていく。
ひらけた場所に出た。目の前には湖が広がっている。
湖──水辺は、境界を意味する。非魔法族と魔法的な存在が交われるかもしれない境目であり、霊的なものがあらわれる戸口でもある。
辺りがわずかに冷え込む。アリルの吐く息は白くなり、湖のふちの植物にうっすらと霜が降りる。
寒い……火が欲しい。焚き火をしたいけどこの冷え込みようじゃ、落ちている木切れは全部
手を擦り合わせ、息を吐きかける。
寒くはないのだろうかと隣人を見やると、小さな手で自らの腕をさすっている。目が合った。彼女はローブの下にもぐりこみ、アリルの体温で暖を取ろうとした。微笑みがこぼれる。
やがて、対岸から、それは現れた。
妖精たち、一角獣、オーグリー、ヒンキーパンク。それにセストラルも。
「あけましておめでとう、みんな」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 25人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時：2020年3月19日 16時
