insomnia(tn) ページ4
「ただいま」
「おかえりなさい」
聞き慣れた、大好きな貴方の声が聞こえた。
……いつもより早いご帰宅のようだ。
酷く疲れた顔をしたトンちゃんはネクタイを緩め、上着を乱雑に投げ捨て、ソファに沈み込む。
あーあー、いつもはそんなことしないのに。皺になっても知らないよ私は！
ハンガーに掛け直したい気持ちは山々だが、見て見ぬ振りをする。
同棲を始めてから買ったソファは気が付けば大分年季が入っており、トンちゃんが座るとギシリと音を立てる。
そろそろ買い換えたらいいのに。
私もトンちゃんの隣に腰を下ろすとやはり少し軋む音が聞こえた。
「今日は早かったね。でも顔色が悪いよ、疲れが溜まってるんじゃない？」
「そんな酷い顔しとるんかな俺、情けな……」
そう言い、確かめるように少し痩けてしまっている頰に手を滑らすトンちゃんの手に私の手を重ねる。
トンちゃんの浮かない表情は変わらず、虚ろな瞳に私の姿は映っていない。
「ご飯食べてないでしょう。痩せたんじゃない？無理矢理にでもちょっとは食べなきゃ身体が持たないよ……って私が言えることじゃないけど」
冗談交じりにそう言うも、トンちゃんはクスリとも笑わない。それはそうか。
「……せやな、飯食わな」
「ホントは私が作ってあげたかったんだけど……ごめんね」
トンちゃんは腰を上げ、フラフラとキッチンへ向かう。
心配なのでこっそり付いていくも、包丁を握る手元はしっかりした様子で短時間のうちに２人分のオムライスを作り上げた。
美味しそうだなあ。以前は包丁の扱い方も危なっかしくて見ているだけでハラハラしていたのに。
「わ！私の好きなオムライスだ！トンちゃんこんなに食べるの？」
「アホか……こんなにひとりで食べれる訳ないやろ」
呆れたような表情を浮かべ、スプーンを手に食べ進めていく姿を目の前で見つめる。
食事と共にお酒も飲んでいるが、少々ペースが早いように感じる。
あ〜あ、そんな急いで飲んで食べなくても……食事は居なくならないのに！
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作者名：柊 | 作成日時：2018年3月21日 18時
