痛みを四針 ページ4
深い闇の中にいるであろう男の意識に、とびきり優しく話しかけようと、口を開く。
これまでに学んだことだ。
高圧的なだけでは警戒されてしまう。
かといってこちらの隙を見せればあっという間につけ込まれる。
以前の契約者も言っていたが、人間というものは、気まぐれで繊細なものなのだ。
だから彼女は、ありもしない悪意を決して悟らせぬよう───
(───、邪魔)
ベアトリーチェが男へ伸ばした左手は、何者かによって阻害される。
反射的に整った眉を寄せた。
この状況の中、死んだ人間に対して興味を持つ者などそれしかいない。
「…お前さぁ、こいつは僕の獲物なわけぇ。邪魔しないでくれるぅ?…あは」
恐らく先程やって来たばかりなのだろう、僅かに地上慣れしていない雰囲気を持ったその悪魔。
既視感の無いその容姿ということは、つい先日堕ちてきたのかもしれない。
ベアトリーチェは長い間地獄を離れていたため、もしかするとだいぶ前からいたのかもしれないが。
どちらにせよ、彼女の噂───悪評と言うべきか───は伝わっていたらしく、鋭い眼光を見せればヒィ、と弱々しく逃げていった。
「あのくらいで情けないなぁ…ねぇ?お前もそう思うでしょぉ?」
右腕の方に抱えていた猫のぬいぐるみに語りかけた。
ベアトリーチェの髪と同じ薄紫色の布で作られたそれは、彼女の動きと共に軽やかに揺れる。
当然返事などはないが、彼女は満足気に微笑み、再び男の方へ顔を向けた。
「さっきは邪魔が入っちゃったけどぉ…今度はお話できるねぇ。あは」
───悪魔の契約は、すぐ目の前まで。
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