痛みを三針 ページ3
彼女は自由だ。
彼女は力強い。
彼女は美しい。
ベアトリーチェを知る悪魔は、口々にそう言う。
あながち間違いではない、と考えながら、ゆくあてもなくふよふよとさ迷う。
地上はそんなに久々でもない。
つい先日まで、人間と契約していたのが事実だ。
むしろ故郷とも言えるべき地獄へ帰ってきたことの方が久々で。
しかし、再び舞い戻った地上は悲惨な有様。
「天使の奴ら…地獄の量産でも企ててるわけぇ？」
まさかそんなことはありえないが、それでも口に出さずにはいられなかった。
何千何万といる人間は全て穴だらけで地に伏し、そこら中がバラバラの欠損死体で埋め尽くされている。
五体満足の人間もまばらにいるが、ほとんど目立った外傷がない者は0に等しかった。
ベアトリーチェも、悪魔となって数百年…現在もきりきりと働く悪魔たちの中では古参であるが、ここまでの惨状は目にしたこともなかった。
なんせ、この終末自体が一度あるかないかの奇跡とも言う。
見覚えの無い景色なのも当たり前である。
「あは、こんなに死んでるんだったら、少しは悪魔と契約するに相応しい人間もいると思うけどねぇ…」
友人が口癖のように言っていたことを思い出し、きょろきょろと緩慢でありながらも首を動かす。
───強い意志、感情。
───“生きたい”という叫び。
感じ取ったそれは、紛れもなく悪魔への呼び声。
引き寄せられるようにその人間の下へ降り立てば、彼は瞼を伏せる直前。
その顔を覗き込み、愉悦に頬を緩ませた。
それは悪魔以外から見れば───否、悪魔から見ても、ひどく美しく恐ろしい笑みで。
「…人間、みぃつけた。…あは」
相手の男は怪訝そうに眉を寄せながらも、意識を落としていった。
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