バイオレットフィズ

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「でもさ、高科先輩は割と本気だったんじゃない？」









「そんなわけないでしょ」









「あたし聞かれたもん。Aに彼氏いるか」









「…へぇ」









本気だとしたら、それはそれで引ける。








…なんて、結局自分が本気になれないだけで相手のせいにしてるだけなのは分かってる。









「へぇって。そんなにダメ男だった？」










「うーん、まぁ、悪い人じゃないんだけどさ」










「でもそうだよねぇ、35歳にもなって独り身なんだし訳ありか」










「うん、そう、そうなの。独身なのが頷けるって感じ。それだ」










大きく頷いてみれば急に黙って見つめてくるから「なに」と睨めば苦笑を返された。










「あんたも人の事言えないけどね。今年30になるんだよ」








「あーもうやめて耳が痛いです、ついでに心も」









「そろそろ真面目に考えたら？」









「真面目にってなによ」










「結婚。誰か紹介する？」










今までだって、何もなかったわけじゃない。








こういう事は何度かあったし、言い寄られる事だってそれなりにあった、だけど。









その度に心のどこかに引っかかる何かを無視出来ず、相手への態度を曖昧に誤魔化してきたのだ。










…ただの、未練。









そんなの、分かってる。










八年経った今でも、あの頃に戻りたいと願ってしまうほど焦がれているのは、私だけなのだという事も。










「いつまでも過去に縛られてたら、人生何も楽しくないよ」









「…え？」









「なにがあったか知らないけど、AはAの今を生きなきゃ」










…私は私の今。










いい加減、忘れなきゃいけない。









きっと、彼も彼の今を生きている。











…だけど。私を縛ったのは、紛れもなく彼自身なのだ。












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