スティンガー II

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「そうかぁ、君がAちゃん」









「…え？」









「はい。これ、ふっかに取っといてって頼まれてん」











差し出されたのは、売り切れたと思っていたメロンパン。











どうして…？










深澤先輩が？私に？











頭にハテナが浮かぶ私に、康二さんはにんまりと笑って私の手にメロンパンを乗せた。











「今日あんま元気なかったからって。メロンパン買いに来る女の子がいたらこれあげといてって、言われてんな」










胸の内からじわっと何かが広がって、愛想笑いの一つも返せない。










…なんで。











だって、そんな素振りなんていつ見せた？











…確かに、亮ちゃんの事で悩んではいたけど。











だから、メロンパンが食べたかったんだけど。











「優しい先輩やん？」











メロンパンを見つめて俯く私の頭に、ポンと乗せられた手が暖かくて泣きそうだった。











私が何かに悩んでいる事も、そんな時にメロンパンが食べたくなってしまったのも、本当は昨日から買いに来ようと決めていた事も、全部。









深澤先輩が気付いていてくれてる事が嬉しくて、でもどうしてって、その優しさにまた泣きたくなる。









「あぁ、泣かんといてや〜」











ちょっと焦ったように顔を覗き込んで「ティッシュティッシュ」とポケットから出して拭いてくれる。










「…ごめんなさい」











「ええんやで〜」











どうしてこう、私の周りにいる人達はこんなに暖かい人ばかりなんだろう。










心の疵に気付いて貰えるという事が、人の手で涙を拭って貰えるという事が、こんなに心を溶かすものだなんて知らなかった。












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