【イナGO】迷える子羊を愛せよ下【天使と悪魔パロ】 (ページ22)

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　何か手はないだろうか。天馬を呼ぶ？いいやダメだ、天使と悪魔は対立しているから、きっと事態がヒートアップしてしまう。ましてや、会社の人間を呼ぶなんて危険すぎる。

　そう考えていると、ふいにポケットに入れていた携帯が、軽快な音楽を鳴らし始めた。誰かから電話がかかってきたのだ。
　剣城も磯崎もその音に拍子抜けしてしまったようで、さっき感じた胸騒ぎも、彼らが放っていた殺気もなりを潜めた。

「あーあ、興ざめだ。じゃあな」
「待て、磯崎！」

　剣城の制止も虚しく、磯崎は姿を消した。
　二人、廊下に取り残される。私たちはしばらく、どちらから声をかけるか探りあっていたが、先に痺れを切らしたのは剣城だった。

「……電話じゃなかったのか」
「あっ、そうだった」

　ポケットから携帯を取り出す。彩花から着信が来ていた。いつもなら、「今電話しても大丈夫？」と先にメッセージが届くのに、一体どうしたのだろうとトーク画面を開いたところで、彩花から反応があった。

「ごめん！間違えて通話押しちゃった」
「誕プレ渡したいんだけど、近々会える？」

と、二つ続けてメッセージが届く。
　私は少し考えて、「まだ職場だから、帰ってからまた連絡するね」と送った。彩花から、クマのキャラクターが「ＯＫ！」と言っているスタンプが返ってきたのを確認し、携帯をしまう。

「彩花だった。間違えて、かけちゃったって」
「そうか」

　気まずい沈黙が流れる。
　天馬の「剣城に会いたくない？」という問いかけに頷いたのは、彼の前で冷静でいられる自信がなかったからだ。彼が悪魔として仕事をこなしただけだとわかってはいても、母が彼と出会わなければ、と考えずにはいられない。

「あの、剣城……」

　続く言葉は、見つからなかった。
　剣城は無言で私に近づき、ハンカチを私の手にあてた。先ほど、磯崎に切られた傷口から血が滲む。

「帰ったら天馬に治してもらえ」

　「ありがとう」という言葉は、剣城の「それと」という声に遮られた。

「磯崎を信じるな」
「――え？」

　言葉の違和感に顔を上げたときにはもう、剣城はいなくなっていた。

　私は剣城のことを恨んでいるのだろうか。それとも、母のほうなのか。感情の行き場がよくわからないまま、時間だけが過ぎてしまう。