文豪ストレイドッグス＊アカの誓い＊

＊２３−１＊望む場所＊ ページ39

＿＿＿＿辺りは暗く冷たい筈なのに、何処か暖かいモノに包まれている感覚がする。


私は…どうなったのでしょう。


この世から、あの人が退屈していた世界から無事に抜け出せたのでしょうか。

また目覚めた時、例の男が隣でくつくつと笑っているのでしょうか。

懐かしく、鼻をくすぐる、あの紅く甘い果実の香りは気のせいでしょうか。


ゆっくりと、目を開ける。


隣でくつくつと笑う男も居なければ、あの日捨てられた地獄の様な惨たらしい光景も、朱く染まった部屋でも有りませんでした。


辺りは、白く輝く霧に包まれておりました。


そしてあの日、私を見捨てなかった唯一の、あの紅い、紅い、二つの瞳が。

ゆっくりと私に近付いて、私と目線を合わせたのです。


其の視線は酷く甘く優しげで。


紡いだ言葉はそれよりも甘く蕩けてしまう程で。


自然と距離が重なったのも気のせいではないのだと。

重なる後方に見える、あの人の煌めく命の城は存在するのだと。


嗚呼、私は漸く…あの人の元へ還れたのだと。


実感したのは、そう遅くはありませんでした。


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