*8−1*龍の異能* ページ14
其の女は外を眺めた。
彼の異能である其の霧を、其の空に輝く蒼白い月を。
「A…」
いつの間に席を立ったのだろうか。
女の名を呼びながら其の細く滑らかな腰をスルリと撫でる手付きは酷く優しく…冷たい。
彼の手はこんなにも冷たかっただろうか?
先程、頭を撫でられた時も、今も。
これではまるで___
そう思うも、その思考は直ぐに遮られる。
「彼等をあの場所へ招待しよう。君が好きなあの場所へ」
「!…ええ、勿論」
互いに微笑み合うと、其の男は女の腰から手を離し、未だに椅子に座る二人に向き合った。
「付いて来給え」
そう言う男に、フョードルと太宰は席を離れると其の男の後を追った。
女はその二人の後ろに付いて行く。
「ようこそ、我がコレクションルーム、ドラコニアへ」
そう言った男の前には煌びやかな半球体状の建物の様な巨大な部屋があった。
其れを守るかの如く、扉には蜷局を巻き、手には赤い宝玉を持った龍が象られていた。
その扉が開かれる瞬間が、彼女は好きであった。
三六〇度、見渡す限りの蒐集品。
紅く煌めきながら、踊る様に回る結晶。
異能力と言う名の…命の結晶体。
「よくもまぁこれほど集めたものだ」
「良い趣味です。悪魔が羨むコレクションだ」
太宰が冷たく呟き、フョードルは微笑して誰にも分からぬ様、後ろの女をソッと見た。
女は未だにその部屋を見てうっとりと心酔していた。
「ならばさしずめ君は、悪魔に情報を売る死の鼠だな」
男はフョードルを見ながらそう言うと、また言葉を紡ぎ始めた。
「ここのコレクションの半分は、君から買った異能者の情報を元に集めたからな。おかげで、都市全体を覆うほどの、この巨大な霧の領域を作り出せた…だが」
一旦そこで言葉を切ると、男はフョードルと太宰のその奥の人物を見た。
其の女は、太宰の背後…まだ空白の棚を見つめていた。
「どうやってあれ程の情報を集めたのかね?」
試す様なその問いに、フョードルは肩をすくめてはぐらかした。
「鼠は街のどこにでも居るものですから」
其れに、貴方から対価として貰った子龍も居ますしね。
太宰がつまらなさそうにニャアと呟く。
フョードルは口にせず密かに笑う。
貴方は“まだ”、知らないのです。
異能者の情報のほぼ全ては、貴方の為だけに彼女が調べ上げたモノだとも。
何故、彼女が僕の側に居るのかも。
何故…六年前の記憶が無いのかも。
全てを知るのは_____未だ早い。
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フェミロ - まろりんさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます。只今、番外編&NG集等を作成中です。ご意見頂いた物語も書かせて頂きたいと思います。ありがとうございます。 (2018年4月29日 8時) (レス) id: af47f06155 (このIDを非表示/違反報告)
まろりん - 泣きました( ;∀;)もし番外編の機会があったら死後、彼らの幸せな場面を見てみたいです。フョードルルートも。 (2018年4月14日 0時) (レス) id: 631d19327a (このIDを非表示/違反報告)
フェミロ - Rukaさん» そう言って頂けて嬉しいです。ありがとうございます。頑張ります。 (2018年3月29日 8時) (レス) id: a574a862fc (このIDを非表示/違反報告)
Ruka(プロフ) - すごく感動しました!!!次の作品も頑張ってください!! (2018年3月26日 15時) (レス) id: aecad8101e (このIDを非表示/違反報告)
フェミロ - ご指摘ありがとうございます。外し忘れていましたので直しました。ありがとうございます。 (2018年3月15日 22時) (レス) id: af47f06155 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:フェミロ | 作成日時:2018年3月15日 21時