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懐から杖を取り出すとその先を条野に向けながらにじり寄る。
「いや、やめてください……Aさんなぜこちらに近付くのですか?」
「……冗談だよ。」
「本気でしたよね?」
未だ警戒するように杖に目を向ける条野には目もくれず、大倉がロゼの袖を引く。
「そんなことより早う見せるのじゃ!」
「条野、動かないでおくれよ……“ロコモーター・モルティス”」
ロゼが唱えると同時に杖先が光った。しかし光ったのは一瞬で一見何も変化していないため、末広がロゼに問う。
「何をしたんだ?」
「足縛りさ。実際に体験してもらおうと思って。」
末広がロゼによって椅子に座らせられた条野の足を突(つつ)く。片方の足首を掴んで動かそうとするともう片方も離れず揃って動く。
「凄いな……」
自身の足を観察する末広を横目に条野が口を開いた。
「……鐵腸さんでも良かったのでは?」
「鐵腸より条野の方が面白そうだったから。」
ロゼはそう言うと魔法を解いて条野の足を解放した。隣でやり取りを見ていた大倉が楽しげに笑う。
「A、いい加減機嫌を直せ。あまり苛めては条野が拗ねるぞ。」
「拗ねませんよ。」
「……そうだ、百味ビーンズの感想を鐵腸に聞きたいんだった。」
大倉と条野の言葉には何も返さず、ロゼは異空間からお菓子を取り出した。
「百味ビーンズ?なんだそれは。」
「魔法界のお菓子だよ。色々な味があるけれど私はあまり好きではないかな。」
ロゼが開けて机に置いた箱の中から大倉が一粒手に取り口に入れる。
「うっ……何じゃ此れは、本当に食べ物か?」
大倉の言葉を聞き条野は伸ばしていた手を引く。
「��子さん、今のは……色から見て、恐らく臓物味かと。此方の猪口令糖や軟飴は普通に美味しいですから、宜しければどうぞ。」
猪口令糖を食べる大倉の横で末広は次々に色とりどりの粒を口に運んでいた。たまに顔を顰めるが大抵は食べることができるようだ。
暫く話し込んだ後、ふと時計を見たロゼが呟く。
「もうこんな時間か……」
お菓子を食べながら一年の間に起ったことを話しているうちに、かなり時間が経っていたのだ。帰る為に立ち上がったロゼに大倉が言う。
「また来るのじゃぞ。」
「ええ、またいずれ。では失礼します……じゃあね、鐵腸、採菊。」
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作者名：透 | 作成日時：2021年9月26日 21時
