太芥『願い』 ページ22
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ハッピーなんて何処にもない。続かせたいけど気力がない。
♀♂
芥川は体温が低い。平熱は35度くらいで、それでいて尚且つ寒がりだった。
どんなに熱い夏の日でも、外套どころか芥川はその下にも着込んでいる。部屋は常時暖房がついていて、寝台には毛布が何枚もあった。
しかし元から体温が低かったわけではない。それは太宰の失踪と同時だったのだ。
___
任務を終え、帰路を歩いていた。季節は春。ただテレビでは夏日だとか、近年まれに見る暑さだとか散々言っていた。
だが僕にとっては何ら変わりはしない。ただ寒いのだ。今日は樋口でさえも暑い暑いと言いながら服の袖をたくしあげていたが僕には理解出来なかった。
…部屋に戻ってから暖房をつけた。その前に膝を抱えて座る。
まだ帰って来るどころか姿すら見せない太宰さんへ何とも言えない気持ちを持つ。如何言えば良いか分からない。ただ…そう…ごく一般的にでいいから…
「…愛されたい」
どんなに薄っぺらな愛でもいい。愛というものに触れたかった。僕は貴方と目が合ったことが一度もない。
愛されて、愛してみたかった。まぁ僕は愛し方など分からないが。
「太宰さん…人虎…」
あの二人を思い浮かべればより一層寒くなる。きっと今の太宰さんは、楽しく生きているだろう。優秀な部下もいれば、楽しそうに新しい相棒と呼ばれる人物と仕事をして。
__何故、何故僕に何も云わずに行って仕舞われたのですか。僕と一度も目を合わせなかったんですか。
もう火の中に手を入れても熱くないんです。ずっと、寒いんです。
暖房の火力は最大限。部屋にあるありったけの毛布にくるまって夜を明かしていく。
そんな僕に気づいて愛してくれるのは誰だろうか。
自分で自分自身を愛せば良いと、思ったことがあった。でもそれでは意味が無いのだ。誰かの体温を感じていたい。
「芥川君」
名前を呼んで、頭を撫でて。もしかしたら其処の扉から顔を出して声をかけてくれないだろうか。
そう、きっとあんな風に何気ないへらっとした顔で太宰さんは現れる。
暖房をつけて暖まる僕を抱き締めて暖めてくれはしないだろうか。
「鍵、空いてたよ。無用心だねえ」
もう半分も目が開かない。そんなに疲れていたのか。時刻は夜中の1時になるところ。
「芥川君」
そういえば先刻から聞こえてくるこの声は一体誰の声だったか。
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羅生門 - 体が痛む。 (2021年4月5日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
羅生門 - karadagaitam (2021年4月5日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
羅生門 - karadagaitam (2021年4月5日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
kyo - 誰が見ても認める美貌の持ち主の芥川さんは、驚くほど食事の量が少ないので食べ残しは私が食べます。(きりっ) (2017年8月25日 10時) (レス) id: b8f51b6520 (このIDを非表示/違反報告)
なかゞわとまと - マジカルワールドさん» 本当に申し訳ないです…!ありがとうございます! (2017年6月10日 23時) (レス) id: 59e0ee862d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なかゞわとまと | 作成日時:2017年4月22日 1時