続き。 ページ12
◆
太宰はびしょ濡れの芥川を抱き締めた。言葉で表せない太宰にとって、行動で表すというのは容易いことだ。
芥川はこうしてやっと意識がはっきりとしたのかひゅっと息を呑んだ。
「だ、ざ…」
途切れ途切れに名前を呼ぶ。すぐさま太宰の腕から抜け、後ろへと逃げた。
「やぁ、芥川君。君に聞きたいことが」
死ぬ寸前だったのだ。まともに走れる訳がない。それなのにその執念は何処から来るのか、芥川は立ち上がった。
そしてその場から離れようとするがそうも簡単に足は動かない。
「逃げずとも私は君を傷つけたりはしないよ」
呆れたように太宰は言った。きっと彼が恐れているのはこれだ。
太宰は優しい視線を芥川に向けた。
「…嘘だ」
しかし絞り出た声は予想外の言葉だった。
太宰は目を丸くし、「え?」と言いたげな顔で芥川を見た。
「嘘だ!嘘だ嘘だ!全部嘘だ!」
癇癪をあげる芥川に太宰は動揺している。こんな事の対処の仕方など知らないのだ。
「あ、芥川君落ち着いて。…死のうとした理由だけ聞かせておくれ」
太宰はあたふたしながらも本題へと入った。
芥川が死のうとした理由、それが太宰の一番知りたかったものであるからだ。
「僕は、僕は、僕は…」
まるで幼子のように泣そうになりながらも芥川は続けた。
「…………貴方に、太宰さんに……愛されたかった…」
途端、糸を切ったように芥川の涙が溢れ出した。
***
「芥川君、もうこんなことはしないでくれ。組織にも私にも。この人類に君は必要だ」
森の伝言。
「手ッ前…!心配かけやがって…!」
中原からの伝言。
全て、誰もが芥川を心配していた。芥川はありがとうございます、と言ってから、もう脱け殻ではない笑顔を向けた。
芥川の騒動は暗黙の了解として、今は何の変わりもない。変わったというなら…
「芥川君、はい、あーん」
「あ、あー…ん」
「可愛いなあ…」
「可愛いとは…」
『___まだ終わらせないで。芥川君、私も君に愛されたい。』
♀♂
ここまでお読みいただたきありがとうございました。誤字があってもスルーで
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羅生門 - 体が痛む。 (2021年4月5日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
羅生門 - karadagaitam (2021年4月5日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
羅生門 - karadagaitam (2021年4月5日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
kyo - 誰が見ても認める美貌の持ち主の芥川さんは、驚くほど食事の量が少ないので食べ残しは私が食べます。(きりっ) (2017年8月25日 10時) (レス) id: b8f51b6520 (このIDを非表示/違反報告)
なかゞわとまと - マジカルワールドさん» 本当に申し訳ないです…!ありがとうございます! (2017年6月10日 23時) (レス) id: 59e0ee862d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なかゞわとまと | 作成日時:2017年4月22日 1時