続き。 ページ11
◆
偶然、否、それは奇跡だった。
入水なんていつもの事。早く死ねないかなあなんて思いながら歩く太宰は、入水予定の川で何か流れているのを見た。
「……人?…芥川君…?」
誰にも宛てられていない呟きと、突如太宰に押しかかる不安。
まさか、あの子が行方不明の理由がこんなことなど…芥川君にはあり得ない。私ならまだしも、彼のような生に執着を持つ彼が…
不安になる太宰の嫌な予感は、徐々に確信へと変化していった。それに比例し、足取りも早くなる。
「っ!」
河原まで来てみれば、流れてくるのはやはり芥川だ。太宰は息を呑み、名前を呼ぶ暇もなくただ彼を陸に引き上げた。
「芥川君、芥川君」
***
突然身体が重くなった。そう、まさに誰かが僕を引き上げた。
誰がそんなことを。こんな雑巾のような僕を…。
それにもう瞼を上げる力など残っていない。呼吸の仕方もあやふやで、上も下も分からない。
「芥川君、芥川君」
嗚呼、でも。あの人の声が聞こえるというならば、あの人をこの目に今一度焼き付けておきたい。
***
芥川君の身体を揺すり、名前を呼び続ける。肩を揺さぶったせいか、彼が咳き込んだ。同時に水を吐く。
良かった、生きていた…
しっかり閉まっていた目蓋も、うっすらと開いていく。その様子はまさに眠りから解き放たれた姫のようだった。
「……芥川君。聞きたいことは山ほどあるが今はまず安静にしたまえ」
出来るだけ優しい口調を心掛けた。自ら命を絶つということは、それの代価に見あった何かがあるはずだ。
でも、今はそれを聞く時じゃあない。
ケータイを取りだし消そうと思っていても消さなかった元相棒の電話番号。それに掛けた。
『ンだよ!こっちは忙し』
「芥川君捕獲!只今から私の自宅にて安静にさせまーすっ」
相手の返事など聞かなかった。ただ一方的に要件を伝え、通話を終了する。まだ自分の腕の中で虚空を見つめる芥川君に話し掛けた。
「芥川君、私が誰だか分かるかい」
「………」
「死のうとしてたのは一目瞭然だ。何故だい?」
「……」
「今中也に連絡したよ。もうじき社長からも連絡が来るだろう」
芥川君は何も言わない。それがまた私を不安にさせた。
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羅生門 - 体が痛む。 (2021年4月5日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
羅生門 - karadagaitam (2021年4月5日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
羅生門 - karadagaitam (2021年4月5日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
kyo - 誰が見ても認める美貌の持ち主の芥川さんは、驚くほど食事の量が少ないので食べ残しは私が食べます。(きりっ) (2017年8月25日 10時) (レス) id: b8f51b6520 (このIDを非表示/違反報告)
なかゞわとまと - マジカルワールドさん» 本当に申し訳ないです…!ありがとうございます! (2017年6月10日 23時) (レス) id: 59e0ee862d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なかゞわとまと | 作成日時:2017年4月22日 1時