心頭を滅却すれば火もまた涼し (ページ1)

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第１話～翡翠の耳飾り～ページ1

　夜明宮の屋根から彼の者達をジッと観察する。殿舎の方へ真っ直ぐに進んでくるので、この宮の主人に知らせるべきか悩む。けれど、主人に憑く金鶏が騒ぎ出すだろうと思い動くのを止めた。
　吊り灯籠が足元を照らし微かに彼の者達の姿が確認出来る。一人は現皇帝の夏高峻(かこうしゅん)。もう一人は宦官、恐らく内常侍の衛青(えいせい)。お偉い御二人がこんな辺境な所へ何をしに来たのだろう。

「はぁ…面倒な事になりそう。

　逃げたい……切実に…」

　諸事情によりこの夜明宮に住んでいる私は宮の前主人に頼まれ事をされ身動きが出来ない。故に逃げる何て出来ず譫言(うわごと)を吐き捨てる。
　少し前に宦官がこの宮に訪ねて来たが金鶏が追い返してしまった。嗚呼、あの宦官は皇帝の使いだったのか。額を抑え頭を抱える。

　これは、降りて話を一緒に聞いた方が良いのか。頼み事ならいざ知らず、首を差し出せ…と言われれば大変だ。やはり此処に居ようか。どうしようか……。
　悩んでいる間にも二人は扉の前へと進んでいた。ぁ……見えなくなった。

　ひとまず、気付かれないように降りる。陰に隠れ会話を聞こう。

衛青「烏妃はほかの妃嬪とは違います。

　会えば厄災があるとも＿＿」

高峻「存外、そなたも噂を信じるのだな、青(せい)」

　信じないとやっていけない生けない事もあるだろう。しかも皇帝の御身を大事にするのは従者として当たり前。人間は未知なるものに対して正より負を大きく考える。それが次第に恐怖に変わり凶器になる。悪循環を改変するには勇気あるものが行動するしかない。難しいものだ。

高峻「細かいことは、あとでよかろう。

　会えば烏妃が女仙なのか、はたまた幽鬼なのか、

　分かるというものだ」

　高峻が扉を開こうとする。が、開けようとしたが扉が音もなく細く開いた。けたましい奇声と羽の音が辺りに響く。驚き目を凝らして見てみるとそれは金鶏だった。すぐさま衛青が取り押さえた。「締めましょうか」と嫌な言葉が聞こえたが心配はすぐに消えた。
　扉の向こうから夜明宮の主人、烏妃・寿雪の声がした。

寿雪「＿＿＿星星(シンシン)を放せ、下郎」

　扉が音を立て大きく開き、衛青の気が緩んだ隙に星星は寿雪の元へ逃げた。

寿雪「これは貴重な化鳥ぞ。

　もし殺せば、お主ではとても購えぬ。

　気を付けるがよい」

　寿雪の物言いに頭が痛くなった。もう少し謙虚に…。