【ワールドトリガー】消えそうな君の、その感情を【影浦雅人】 (ページ49)

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44☆距離ページ49

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「勿論、心配じゃなかった訳じゃないよ」

悲しげな笑顔の優しい言葉。
ぶつかっては消えていく感情を、影浦が理解することは出来なかった。

「でも去年、雅人が無事だって分かったら……怖くなったの」

「怖く……？」

伏せがちの眼には、不安と悲しみが色濃く滲んでいた。その瞳には、遠くの何かが映っているのだろう。

目の前にいる筈なのに、引き寄せている筈なのに、どうにも遠い。

「二年前、というか……二年間で起こったことが多すぎたんだよね」

「何があった」

「……今は、話せない」

震える声に、隠そうとしている訳では無いと悟る。話すべきだとは、本人もわかってはいるのだろう。

「まだ、自分の中で整理できてないの。……話せるようになったら、ちゃんと話すから」

「……お前は」

影浦の口から出た短い言葉は、本人も驚く位の優しい声色だった。
痛む程強く掴まれた腕とは対照的なそれに、月読は顔を上げる。

「昔からそうやって、一人で抱え込むんだよな」

「抱え込んでる、かな」

「自覚無いのかよ」

「……」

「話せねえなら無理には聞かねえ。ただ、いつかはちゃんと話せよ」

「……ありがと」

そう告げる月読の笑顔が、もはや痛々しかった。何故、そうまでして笑顔を続けるのだろうか。

影浦は、見ていられないとでも言わんばかりに月読を優しく抱き締めた。少し力を込めるだけで壊れてしまいそうな気がした。
赤子でもあやすように背中を軽く叩けば、ようやく小さな嗚咽を溢し始める。

昔からそうだった。こちらから促さなければ人前で泣くことはない。彼女はずっと、そうやって強くあろうとしてきたのだ。

彼女がそうして創り上げてきた強さは一歩間違えば消えてしまいそうに危うくて、誰かが側にいなくては到底成り立たないものだった。

その支えが、今は無いのだろう。

ならば今だけでもいいから、仮のもので構わないから、少しでも支えになろうと強く思った。

もう、消えないように。