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「帰ってきたんか!」

出にくい声で、そういうおばあちゃん。

手を伸ばすおばあちゃん。

少しやせて小さくなったおばあちゃんの手をそっと握りしめた。

泣いちゃだめだとわかっていながら、
涙が止まらなくて小さな手を握りしめたまま
動けなかった。





おばあちゃんと私たちは、その週末をしずかに楽しく過ごしていた。

すこし紅葉をはじめた庭をみながら昼ごはんを食べた。

窓にへばりつく大量のカメムシに顔を歪めながら食べたごはんも今となっては大切な思い出だ。

ヒョイとおばあちゃんが指さす先にはカメムシがいた。
…なんの話なんだか。でもこの日はとにかく本当にすごかった。

今年の冬は雪がたくさん降るんだろうなといいあった。

結局、カメムシが多い年にはたくさん雪が降る、といういいつたえを今年は裏切る形になったが。


楽しい週末はあっという間に終わり、夕飯をたべて私はまた夜行バスにのり帰る時間が近づいていた。

私がおばあちゃんと過ごす、最後の時間だった。


私が作った味の薄いパサパサのおからを口に運びながらおじいちゃんとおばあちゃんと3人でお話をした。

大した話じゃない。

テレビをみながら、テレビでててくる言葉を拾いながらするような、そんなありふれた日常の、たわいのない会話。

実際、もう覚えていないくらいの。


おばあちゃんが、現金もってないとあかん!ってお小遣いをくれた。

これでまた帰ってくるね、と約束した。



そしていよいよ、出発の時間。


もしかしたら、これが本当の最後かもしれない。

だから

「おばあちゃん、いってくるね!」


「うん、ありがとう。」


「またすぐ帰るね!」


うんうん、と頷くおばあちゃん。

わたしは、ぎゅっと抱きしめた。


「いってきます!」


リビングから玄関までの短い短い距離を
わたしは何度も振り返った。

笑顔で。

精一杯の笑顔で。



手を振って笑うおばあちゃん。

わたしが最後に会ったおばあちゃん。



おばあちゃん、天国はどうですか。意外と友達と楽しんでたりして。

わたしはあいかわらずだよ。

夏休み、恋の相談したの覚えてる?
フラれた時、「縁のものだから」って言われて妙に納得したけど。

その”縁”の人っていつ現われる予定?

もしかしたら私出会ってるかもしれないの。

おばあちゃんのいない世界で、恋したんだ。まだ片想いだけどね。

この人が縁のひとだったら、おばあちゃんからのプレゼントだったらいいなあって、そう思ってる。

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作者名:meeeta. | 作成日時:2017年6月13日 14時

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