【◇】君が名付けた場所 (ページ8)

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08章：机上ページ8

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御幸「あれ？いつもより来るの早くね？」

蔵沢「あ…御幸、おはよ」

朝練が終わって教室に行くと、いつもならまだ来てない蔵沢がすでに自分の席に。

…そういや、今日はいつもより人が多いな

俺の方をパッと見て挨拶もそこそこに、視線をすぐ教科書に戻したその様子に、ニヤッと笑いながら声をかける。

御幸「…お前、一夜漬けするタイプだろ？」

蔵沢「そう思うなら黙ってて、この時間が正念場なの…！」

御幸「前もって勉強しとけよな」

蔵沢「公式忘れるからほんと黙ってて！」

頭から湯気でも出てんじゃねーかと思うその姿に話しかけるのを止め、カバンの中から教科書を取り出す。

御幸(明日の範囲でも見とくか…)

パラパラ～と教科書を流し読み、パタンと閉じれば表紙の上に人影が映り込む。

蔵沢「…日本史？日本史って明日だよね？」

御幸「今日試験のやつ、いま見ても意味ねーじゃん」

蔵沢「それ私の目の前で言うかな？！」

御幸「はっはっはっ！…で？正念場の大事な時に俺と話してていいの？」

「黙ってて！」と言った手前気まずかったのか、俺の机の上におずおずと遠慮がちに、数学の教科書が開かれる。

蔵沢「…数学はお得意でしょうか…？」

御幸「俺、得意も不得意な教科もねーよ？」

蔵沢「天才捕手と名高い頭脳と、その眼鏡を見込んでお願いがあります…！」

御幸「そこは眼鏡じゃなくて俺を見込めよ」

蔵沢「ココの問題を教えて下さい！！」

教科書の例題を指差しながら、懇願してくる蔵沢に笑いを堪えつつ「この問題は…」とシャーペンを握る。

御幸(…ん？何かすげーいい匂いする…)

その香りに少し目線を上げれば、教科書を見る蔵沢の頭がすぐ目の前に広がる。

ひとつの机の上で、ひとつの教科書を見合う距離は、見つめるには近くて…

ひとつの机の上で、ひとつの教科書を見合う距離は、触れようとするには遠くて…

御幸「…で、この公式を当てはめたら…」

蔵沢「…あっ！ちょ、ちょっと待って…！」

「分かったかも…」とスラスラと迷うことなく、答えまでを導き出していく蔵沢。

蔵沢「…出来た…初めて理解出来たかも…」

御幸「やれば出来んじゃん」

蔵沢「御幸のお陰だよ…本当にありがとう！」

突然パッと顔を上げた蔵沢と、目が合った距離は今までの中で1番近くて…

御幸「好きだ！」

…と、勢いで言いかけたその言葉を急いで飲み込んだ。

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