不器用な彼に恋した私。Ⅴ (ページ20)

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207．愛しい寝顔。ページ20

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A「翔君…！」
運転席で眠ってしまっている翔君に気づくよう、窓ガラスを少し叩いた。

翔君は瞼で閉じ込めていた瞳をゆっくりとさらして、ゆっくり私のほうに視線を合わせた。
眠たげな眼は、ゆっくり細くなって。
微笑んだのちに、ゆっくり口元は“おかえり”と動いた。

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促されるまま、助手席に乗り込んだけど・
気まずくてなにも話せず、スーツスカートの上で固く握りこぶしを作ったまま、どんな言葉がぴったり100点なのかを探していた。

翔「災難だったね、俺もその話やっと課長からしっかり聞いた。
頼ってくれればよかったのに」
A「迷惑かけたくなくて…ごめんなさい」

翔君は小さくため息をついた。
きっと、誕生日を優先しなかったことにがっかりしてるんだ。

翔「仕事の上司としていうならば…
そうやってリーダーだからって責任を感じて、仕事を請け負うのはすごく尊敬したし、
Aは頑張ったと思う
ただ、もっと後輩の仕事量の進捗を把握していればよかったかなとは思うけど。
その案件の内容の業務は正しい量だったし。
こなしていなかった後輩の子が問題だと思う。
断れた先輩の仕事が異常に多い
だから、言ってみればAに非なんてないんだよ」

だけど…と続けた翔君。

翔「恋人としていうなら…どうして頼ってくれなかったんだ」

きっと、がっかりしちゃってるんだ

A「ごめんなさい…」
めんどくさい女だなんて思われたくないからずっと我慢してたのに、
目からはその思いとは反比例して涙がこぼれてしまう。

・

翔「頼って欲しかったよ、本当は」
悲しそうな声色。
鈍感な私でも、この声は悲しいときにする声だって知ってる。

思わず顔を上げて、翔君に視線を向けた。

悲しそうに眉を寄せて、私をずっと見つめていた。

A「ごめんなさい…」
見せるな、涙だけは見せるな
意識すればするほど、涙がぽろぽろ頬を伝う。

翔君は、指で涙を拭い取ると、車にエンジンをかけて走り出した。

・

走行中の車は、静まり返ってお互い、退院後だから話したいことであふれるだろうと考えていたけど。
全くと言っていいほど、会話を交わすこともなかった。
車が走るたびに唸り上げるタイヤの音だけが二人の間で流れて行って。
私はそれと遠くに聞きながら、きっと嫌われちゃったんだ、という予感に胸を痛めていた。