黎明の剣

舟 ページ12

｢ほう、水が綺麗だ｣

立ち入り禁止と分かっていて踏み込むのだから、実に野暮な存在だろう。

好奇心じゃないと言えば嘘になる。故に彼を連れ……否、巻き込んで、私はその欲を満たしに来たのだ。

｢嬉しそうだな｣

｢分かるかい？ルシファー｣

｢瞳の色が変わっている｣

｢おっと｣

それはそれは、と大袈裟な表情をする私を見下ろしながら、ルシファーは小さな船を動かしていた。

｢しかし、この研究所の所長に舟を漕がせるだなんて。…私はもしやとんでもない事をしているのでは？｣

｢押し付けて来たのはお前だろう｣

｢だが否定は出来たはずだ｣

｢言い合う時間が惜しい｣

｢それは失敬｣

しかし本当に綺麗だ。

そう言いながら、湖の水を掬い口を付ける。

｢おい｣

一瞬だけギョッとした顔をして、ルシファーが声を出す。

｢ん？どうしたんだい｣

｢いくら水の透明度が高いからと言って無闇に口を付けるな｣

｢大丈夫さ｣

｢……｣

おっと。

頭を抱えさせてしまっただろうか。

私の突発的な行動は悪い癖だ。勿論、治す気は無いが。

｢この区域は水質の調査もされていない。寄生虫の卵を飲み込んでも知らんぞ｣

｢うん。何かあれば君に頼ろう｣

｢人の話を聞いているのか？｣

｢あはは、全く｣

笑いながら空を見上げる。

真っ黒な空には無数の星が浮いていて、どうだ美しいだろうと言わんばかりの月まで輝いていた。

｢君とこうして出掛けるのも久々だ｣

｢あぁ｣

私は楽しい。

そう言うとルシファーは、静かに｢そうか｣とだけ返してきた。

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