佰参拾弐 ページ32
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珠世side
相変わらず目の前の美しい彼女は優しい笑みを浮かべ続ける。
『…まさか、お知り合いだったとは』
珠「彼とは十数年に一度ほど、文を交わす仲でした」
といっても顔を合わせたのは初対面の一度きり。
彼は鬼を嫌っていたように思う。
業務連絡のような簡素な内容の手紙を茶々丸に持たせ、いくらか連絡を取って情報を共有していた。
それが、最後の二通は。
珠「二十年ほど前に、彼から一通の手紙を受け取りました。内容の殆どが、貴女のことばかり」
その文字からは嬉々とした感情が読み取れた。
"初めての言葉が自分の名だった"だの、"髪色がお揃いになった"だの、今までなら考えもしなかったような世間話ばかり。
珠「それから数年後に、彼はまた手紙を寄越しました。
"Aを頼む"と。
……最後の手紙でした。自身の身体の限界に気付いていたのでしょうね。彼は一滴の血を飲むことも良しとしませんでしたから」
Aさんの表情が微かに曇る。
珠「…彼の訃報は、お館様から聞きましたよ」
愈「…………お前が、あの男を殺したと」
珠「愈史郎っ!!」
『……………………』
愈「仮にも育ての親だろう。お前には関係の無い事だったか。善良な鬼であっても斬るか。本当はこの俺達の事も斬るつもりで来たんじゃないのか」
珠「やめなさい愈史郎!!」
あぁ、やはり愈史郎には席を外してもらうべきだっただろうか。
『………………』
Aさんは変わらず穏やかに微笑んでいる。
ふと愈史郎を見ると、気味悪げに眉を歪めていた。
愈「……………」
『…あぁ、そうだね、私が彼を殺した。だがそれについてはもう私の中で踏ん切りがついた問題だ。あまり掘り起こさないでおくれよ』
愈「…ふん、だが…」
『…それに、よく見ておくれ。今日は日輪刀はおろか木刀さえも持ってきてはいない。君達を斬る気なんて毛頭ない』
落ち着いて言葉を並べるAさん。
傷つけてしまったか、怒らせてしまったかと一瞬焦ったが、どうやらその様子はない。
この若さにしては異様な程の落ち着きようだ。愈史郎にも少しは見習ってほしいとさえ思う。
珠「愈史郎が失礼なことを…本当にすみません」
愈「た、珠世様、なぜ謝るのです」
珠「貴方も少しは反省なさい」
『ふふっ、お気になさらずに。
それで、お話は他にもあるのでは?』
珠「…そうですね。
貴女の、その眼についてです」
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MARE(プロフ) - 海の中で目開けでも染みませんよ。普通の水と同じです(体験談) (2021年6月26日 20時) (レス) id: 7446762651 (このIDを非表示/違反報告)
かん - お久しぶりでございます…!楽しみにしてました。これからも楽しみに待っております! (2020年6月7日 16時) (レス) id: b9832c7634 (このIDを非表示/違反報告)
翔(プロフ) - すごいハマってます。小芭内かわいいです/笋靴砲呂燭泙蠅泙擦鵝そしてむいくんの可愛さも尊い 小芭内が一時期愈史朗くんに近かったのが笑いました。これからも楽しみにしております。(^-^) (2020年6月3日 2時) (携帯から) (レス) id: b9fae3d1e9 (このIDを非表示/違反報告)
shion - 久しぶりの投稿嬉しいです!!続きも楽しみにしてますっ! (2020年6月2日 1時) (レス) id: bbadf961a9 (このIDを非表示/違反報告)
紅蓮(プロフ) - めっちゃハマりました!!続きが読みたいです!更新頑張ってくさい! (2020年5月26日 22時) (レス) id: d6f1919e89 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:M2 | 作成日時:2020年1月31日 20時