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横断歩道の信号が赤になり立ち止まった。迅はどこか一点を見つめて言った。
「あの人は、近界民に狙われやすい体質をしてた。実際に体験したんだろうね、それを本人は気づいてた。だからボーダーに話を持ちかけてきたんだ、僕を囮にしてくれないかって」
突然の告白に体の芯が冷えていく。
「そして戦い方を教えてくれないかとも言ってきた。なんでだかわかる？」
呪いがズキズキと締め付けるように痛い。迅はパッとこちらへ顔を向けて、私の回答を待つ気もなく間髪入れずに言い放った。
「Aちゃんを守りたいからって」
そんなもの知らなかったし、迅が嘘をついているようにも見えなかった。なにも言う気になれず、青になった横断歩道を歩く。
私は必死に生前の兄の姿を思い浮かべた。いつだって優しく、笑顔で、大好きな兄。祖母のせいで半壊してた家族の糸を、切れないように保ってくれていた。事実、確かに私を守ってくれた。役目を果たせて天国で笑っているのだろうか。そう思う反面、特別と言って手首を掴まれ心臓を抉られた感覚に、今頃地獄で彷徨っているのではないかと言う気さえしてくる。
守ってほしいだなんて頼んでない。兄が死んだら意味がないと言う気持ちに拍車がかかって喉を詰まらせる。
「……兄は、そんなこと言ってこなかった」
「そりゃあ言わないよ、言ったら確実に止めるでしょ？」
「当たり前じゃん！」
私の声は崩落の住宅街によく響いた。立ち止まって俯いた私に、迅は振り向いて近寄った。そしてあやすみたいに頭を撫でられる。
「優汰さんは、ボーダーに入ってからも争いを拒んでたよ。もっと違う方法があるんじゃないかってずっと探してた。おれにさ、よく聞いてきたんだ。未来では争いは起きてないかって」
「……未来が見えるって本当だったんですか」
「やっと気づいた？まあ全部がはっきり視えるワケじゃないけどね。それでさ、優汰さんは耳にタコができるくらい聞いてくるわけ」
だんだんと愚痴をこぼすかのような声色になり、思わず見上げた。迅は私の頭を軽く叩いて、肩をすくめて呆れ半分の表情で笑った。
「妹は笑ってるかってさ」
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作者名：あのね | 作成日時：2023年3月17日 19時
