✾ 夢 (ページ8)

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八ページ8

それでいて、不幸でした。
　私は、実家を、家族をとても嫌っておりました。あの人達が、何より厭でした。

　私、この話の間に「本家」、「当主」、「立場」なんて言葉を上げていましたね。この意味がお判りでしょうか。……実家は、ただ裕福なだけでなく、由緒正しい家なのですよ。それなり教えや規則、そして世間的な立場というものが個々に持たされる家でした。厭でもです。特に持ちたくないようなものを、使命なのだと言って、無理矢理に両手に握らされる場所です。「正しく在るべきなのだ」という言葉を、説法、或いは経の如く、延々と耳元で囁かれる場所です。……私のこの言い方は、何よりも悪いのでしょう。この認識は、完全に私の独断のものです。他の誰ひとりだって、あの場所をこんな風には思ってはいないでしょう。でも、私はあの場所が厭だった。外のどんな所よりも。例えば、腐りきった死体達の山ができている、そんな所に暫く居させられたとしても、きっとあの家に居ることよりずっと良いんです。

　何故なら、あの家では、私が私では居られないから。……もしかすれば、変な話に聞こえるやも知れません。私はきっと、誰より我儘なだけの人物だと思われるでしょう。そう思われても構いはしない。しかし、あの家は、私とは噛み合わないのです。どうしても。私には、「正しい」が何か解りませんでした。ずっと、ずっと、耳元で囁かれ続けた言葉の筈なのに、です。私も、初めこそは、あの方達が言う「正しい」に倣(なら)って過ごしていました。その時ですら、言葉が持つ意味も、私がそうであるべき意味もあまり見出しませんでしたが、父も母も、私が慕う兄も、そうしているのならばそれが善いのだろうと。しかし、一度その言葉に疑念を抱くと、今に至るまで、それが一体どういう意味なのか、さっぱり解らなくなりました。解らないもので在り続ける意味を、私は持ちません。ですから、段々と厭に成りました。いくら厭であっても、「正しい」で居なければならない家のことも、厭に成りました。それでも、そんなことを思ったところで生活が変わるわけではありません。ですから、その内に、私は「壁」を作ることにしました。「壁」の外側と内側で、自分の在り方を分けました。

九→←七