橄欖の側にて咲く青薔薇の密かな望み。そのヨン

ヒャクハチジュウニ話 ページ37

誰かが呼ぶ。

男性の声と、女性の声。

「起きなさい！」
「！」

強気で大きな声に思わず飛び起きてしまった。

よく理解できないまま声の発生源を見れば、腰に手を当てて私を見下ろしているリンちゃんがいた。

「おはよう、ございます？」
「はい、おはようございます。早速だけど起きて準備して」

目を瞬く。

「ベッドから降りて着替えて顔を洗う！」
「は、はい！」

怖い顔で言うので早々にベッドから起き上がった。

そのまま服を私に押し付けたリンちゃんはアサシンに終わったらリビングにくるように言って、部屋を出て行った。

よくわからないリンちゃんの背中を見送れば、おはようとアサシンに念話で声を掛けられて目を白黒させながら手元の淡い青色の洋服らしきものを見ながらこちらも返す。

ーーとりあえず着替えたら案内するから呼べよ？
「わ、わかり、ました？」
ーーなになに？ 着替えを手伝ってほしいって？
「とりあえず出て行ってください」

生返事のアサシンの気配が部屋の外に出たことを確認してから、ひとまず着替えることにした。

そういえば、リンちゃんのお家にお泊りと言えばいいのか不明だけど、一泊明かしたことを思い出す。

服を脱いで、リンちゃんから渡された服を着ようとして気付く。

「……入らない」

まさかの入らなかった。

渡された服はカッターシャツに淡い青色のＶネックのロングセーター、七分の紺色のサブリナパンツだったのだけど。

サブリナパンツは入ったのだけど、カッターシャツが入らなかった。

太ったつもりは毛頭ないのだけど胸元がきっちり閉められなくて、無理矢理閉めようとすれば第二か第三ボタンが何かの拍子で飛んでいきそうで怖い。

悩んでいればアサシンがどうしたのかと念話で聞いてきて。

「リンちゃんから貸していただいたカッターシャツがあるのですけど、それが入らなくて」
ーーほう？
「どうしましょう……」
ーーとりあえず、閉められるところまで閉めて、他にも何か渡されてたはずだろ？ それを上に着たらいいんじゃないか？

わかったと頷いて、ギリギリ第三ボタンまで留めてＶネックセーターを着て、前を隠すように着ていた服を畳んで抱えて廊下に出た。

「アサシン」
ーーあー、わかった。ひとまずそれでいいと思う。何かあったら庇ってやるからさ。
「お、お願いします……」

動かなさすぎて太ったことに少しショックを受けつつ、アサシンの後を付いていった。

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