ジュウロク話 ページ18
時折彼が懐中時計を取り出して時間を確認しているが、ゲストであるイスタリ家の少女はなかなか来ない。
既に私と彼が着席してから三十分近く経っている。
元々二週間前の提案を急遽受けてきたようなもののため、体裁等も考慮すると低いが可能性としてはあり得てしまう。
流石にそれはエルメロイに対して失礼だとイスタリもわかっていると思う。
私のせいで弱小になってしまったけど、それでも時計塔の十二のロードの派党であり、且つホストがロードである彼なのだから来ないということはエルメロイに噛み付いてくることになり兼ねない。
ただでさえイスタリ家は当主であるハイネ・イスタリと魔術刻印を失ったばかりなのだから下手なことはしないはずだというのに。
「遅いですね、イスタリ家少女」
「……少し外を見てこよう」
「お供しましょうか」
「いや、心遣いだけ受け取ろう。Aはここで待っていてくれ」
席を立ち、ドアの向こうへと出ていく彼を見送る。
そうして少しだけ息を吐いた。
そのまま並べられた食器を見て、ふと視線を感じたために前を向けばいつの間にか見知らない少女が一人着席していた。
バターブロンドの髪に少女らしくリボンが付いたカチューシャを付けている、コバルトブルーの瞳を持った少女の顔には隠しようがない影が見えていた。
「貴女が、ロザリンド・イスタリ嬢でしょうか」
「……はい」
消え入りそうな声で頷く少女はやはり約束の相手であるロザリンド・イスタリであった。
彼とは入れ違いか、と思いながらもホストの補佐らしくゲストをもてなさなければならない。
「はじめまして。私はA。A・エルメロイ・アーチボルトといいます」
「……A、さん？」
「はい。ロザリンドちゃんとお呼びしてもよろしいでしょうか」
「……はい」
「ありがとうございます。私のことは気軽にAとお呼びください」
にこりと笑う私に対し、ロザリンドちゃんは暗い表情のまま頷く。
ただ私の名前を耳にした時に少しだけ目を大きくして驚いた様子だったのが疑問。
彼が戻ってくる少しの間、極力楽しい会話を努めてロザリンドちゃんに振る。
反応ははいと頷くか、いいえと首を横に降るかの二択しかないけど。
しばらくすれば彼が戻ってき、ロザリンドちゃんが着席していることに一瞬驚き、だが直ぐにロザリンドちゃんと私に待たせてしまったことに謝罪とコースを始めるようにボーイに言っていた。
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作者名：翔べないペンギン | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/
作成日時：2023年3月22日 1時
