「コーヒー。あとそれから手前。」【中原中也】

後日談３．プレゼントされるようです。 ページ23

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彼と歩くいつもの帰り道。こうして二人で歩いていると、初めて送ってもらったあの日を思い出す。

確か、中也さんの顔を見つめていたら目が合って。なんでもないです、と誤魔化した筈だ。ああ懐かしい。


あの日と同じように隣を歩く彼を見つめる。相変わらず歩幅を合わせてくれるあたり彼は変わらず紳士なようだ。


じっ、と彼の美術品の如く綺麗な顔を見る。気付かないかなぁと考えていたらぱちりと目が合った。


やはり彼は私をよく見てくれる。嬉しさで思わずにやけそうになっていると「やっぱ俺の顔になんかついてんのかよ」と困ったように笑うから。

恥ずかし気もなく「貴方に見惚れてました」なんて言えば、彼は驚いたような顔をして。それから「手前なァ……」とそっぽを向いた。



彼の顔がほんのり赤かったのは、夕日の所為にしておくことにした。





＊





アパートに着いて。一礼と共に彼へお礼を。少しだけ寂しいけれど、彼はきっとまた明日もお店へ来てくれる。


＿＿ああでも、寂しいものは寂しいのだ。


行かないで、と言いたくなる気持ちをぐっと抑えて笑顔を浮かべる。また明日。


そんな私の気持ちを知ってか知らずか。彼は少し迷った様子で数秒目を泳がせて。それから覚悟を決めたのか、懐から何かを取り出した。



「手前に合うと思って買った。やるよ。」



と、少し照れたように笑う彼から差し出されたものを両手で受け取った。一体なんだろうかとじっと見つめてみる。

薄い桃色の液体が入った瓶が透明な袋で包まれていて、これまた桃色のリボンでちょこんと可愛らしく結んであった。


香水である。香りはローズ系だろうか。



プレゼントと彼を交互に見る。そんな私に「落ち着け」と彼はまた困ったように笑うのだ。



＿＿いつの間にか、寂しさは消えていた。





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男性が女性へ香水を送るのは、【自分色に染めたい】という意味があるそうです。

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