【HQ!】バレー部とのエンカウント率が高い系女子の日常【稲荷崎】

第七話 ページ8

side宮侑


俺の片想い歴は、2年目に突入しようとしていた


彼女を見たのは、高校の入学式の時

めっちゃ綺麗な子がおる、って同級生が騒いでいたので、どんな子かチラッてみたのが始まり

噂通りに、その子は美人で綺麗で、男の憧れを体現したような子だった

その時は普通に男としてときめいたし、願わくば声をかけて話してみたかったけど、彼女は違うクラスだったし、何となく近寄り難い雰囲気もあって、なかなか勇気が出なかった。その時から、少しずつ惹かれていたのだと思う


それがはっきりと好意に変わったのは、バレー部の体験入部の時だった

休憩の時間、トイレを探して体育館まわりをウロウロしていると、途中弓道の袴に身を包んだあの子とすれ違った

近くで見るとやっぱり綺麗で、こちらに気付いた彼女は会釈をして通り過ぎて行った

あぁ、声掛けてトイレの場所聞くついでに連絡先とか名前とか聞いとけばよかった、と後悔した頃にはもう彼女の姿はなかった


弓道場は体育館の隣にあって、体育館の入口のロータリーからは、弓を射っているところがよく見えた

トイレを済ませてそこから見てみるも、あの子の姿はなく、探しているうちに休憩時間が終わって、結局また姿を見ることは出来なかった


そして体験入部が終わった、結構遅い時間

バレー部は結構長くやっていて、もうあたりは暗く、他の部活も退去していて、それは弓道部も同じだった

内心ため息を吐きつつ制服に着替えてロータリーに出ると、誰もいない弓道場の全面に、まだ灯りが点っているのが見えた。そしてその中に1人、袴姿で矢を射る彼女の姿があったのだ



そして、俺の心は奪われた


一直線に伸ばされた背筋

真っ直ぐに的を見つめる静かな眼差し

軽く息を吐いて、弓を構える厳かな雰囲気

全く動かず、震えもせずに矢を引き、数秒間そのままでいるしっかりとした体幹

そして矢を離したと同時に揺れる、彼女の上で纏められた、黒い髪が光に反射して綺麗にたなびき、放たれた矢は的の真ん中を射抜いていた



綺麗だと、この世界で1番輝いていると、初めて思った


その時から、水島露草が好きになった


最初は容姿に惹かれたけど、今は断固として言える。


自分は彼女の、弓を引き、矢を射る姿に惚れたのだと



それからはずっと片想いだった


話しかける勇気がなく、練習後の1人の自主練を遠目で見つめるだけ


誰にもこの片想いは知られないまま、もう1年が過ぎようとしていた


けれど、それももう終わりを告げようとしている


侑side 〜完〜

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